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友達欲しさに、恋愛に手を染める

友達が欲しくて欲しくて欲しくて仕方なかった。小さなころからずっと。
女きょうだいの中で育った私は、幼少期の大半を姉妹あるいは隣家の三姉弟に遊んでもらっていた。身内としか関りを持たずに育った私は、教室で仲間を作ることが苦手で、友達関係を上手く築けずにいた。小学生の頃は、できもしないのに野球の輪に入れてもらっては、デッドボールを避け切れずに泣いて帰ったりした。当時男子の間で流行っていた、ガンダムやキン肉マンに一切興味がなったから、共通の話題で盛り上がることもできなかった。暇を持て余した私は家で進研ゼミばかり解いていて、各教科のキャラクターが心の友達だった。おかげで勉強はできる子だったので、クラスで一目置かれる存在にはなったけれど、やっぱり寂しかった。そして大人になって中年の域を過ぎた今もなお、友達への憧れは強いままだ。
 
友達が欲しいなあ。友達がいたら私の寂しい残りの人生も、何とか折り返し歩いていけそうな気がする。
 
そこまで友達を切望しているくせに、子供の頃は親友という言葉に拒否反応を示していた。小学生の頃は仲良くなると、「僕たち親友だもんね。」といった、謎のお約束が教室内で流行った。私も当時、数少ない友人にそのような言葉をかけられ、「そ、そうだね。」としか返せなかったけれど、親友という言葉の押しつけがましさ、限定的な響きが苦手で自ら使うことはできなかった。私は親友よりももっと希薄で、でも互いに見捨てず繋がりを持ち続けられるような、離れて暮らす家族や親戚のような関係を望んでいるからかもしれない。
私自身ゲイであることを自覚し始めたのは昭和の頃。幼かった頃の社会状況からは、将来両想いの男の人と一緒に過ごせる日が、ましてや家族になれる日が来るかもしれない、なんて考えたこともなかった。結婚もできない私には、長く一緒に居られる友達が必要だ。これからの長すぎる人生を生き延びるために、ずっと友達を渇望していた。
 
歳を経るにつれ、少しずつ友達ができるようになっていた。ライフステージが変わるにつれ部活や生徒会、サークル、職場などそれぞれの場所で、友人たちと距離が縮まるのを感じた。それでも普段会う以外の場所で、一緒に遊んだりすることはあまりなかった。当時の私は自らのセクシャリティを誰にも明かせず、バレることに戦々恐々としていた上、秘密にしていることが嘘をついているように思えて、いつも後ろ暗い気持ちで生きていた。酔ってうっかり自らの性志向について話してしまうのを危惧して、本当は飲めるくせにお酒が飲めないふりさえしていた。いつもアウティングによる社会からの排除におびえる反面、ひた隠しにすることが自らを理解してもらうことの妨げになっていることも感じていた。
 
そんな悶々とした思春期の中、私は試みに大学の実験パートナーの女の子に自らのセクシャリティを打ち明けてみた。彼女は研究室で明暮一緒に実験をしていた戦友のような存在で、実験が順調な時もそうでないときも、いつも一緒に飯を食いながら研究や就職、音楽の話などずっとおしゃべりできる稀有な存在だった。私の唐突な自白を聞いた彼女は、「全然気づかなかった、このままいくと好きになるところだったよ。」と笑って私を受け入れてくれた。この歳になってようやく初めて男について、恋愛についての話ができる相手ができたのだった。初めてカムアウトした相手が、その後も私を忌避することなく受け入れてくれたことに安堵し、相手によっては自らをさらけ出してもいいのだと自信を得ることができた。
 
そうして一度、心情を吐露することを自らに許してしまうと、「自分は誰にも解ってもらえるはずがない」という思い込みが決壊して、自分をもっと知ってほしい、同じ立場で悩みながら力強く前に進んでいる同士と話がしたい、という欲求を抑えきれなくなってしまった。
 
でも今さら何をどうすれば。唐突に通り魔の常套句が、私の心情とごちゃ混ぜになって浮かぶ。
 
「遊ぶ相手欲しさにやった」
「相手は誰でもよかった」
「目的のためには手段を選べなかった」
 
そうだ、彼氏を作ればいいのだ。彼氏となら、互いを深く理解できるかもしれない。嫌な別れ方をしなければ、同じ興味や共有体験も持てているし、あわよくばその後の人生を扶助し合える関係にもなり得る。好きだけで、互いを思いやる気持ちがなければ関係が破綻するのは、家族や友達だって同じだ。
友達が欲しくて恋愛関係になる。確かに世の恋愛に対する裏切りのようなすわりの悪さはある。でもどのような人間関係であれ、永く続けて最終的に到達するベースラインの温度は変わらない。だったら私は最初から長く平熱で思いやり続けられる手口を選ぶことにした。通り魔とまでは言わないまでも、不意に訪れる恋愛というハプニングに乗じて、これまで紡ぐことのできなかった人間関係をひとつひとつ丁寧に編んで行くことにした。

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