間 二郎

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浮夢

 影雨。  金魚鉢に納まる首だけの私は眼球だけ動かす自由を与えられ、硝子面越しに辺りを見ている。幽暗な間に幾匹のクラゲが浮かび上がりぷかむぷかむと静かに泳ぐ。傘の縁から生えた無数の触手はほのかに輝きたゆたう。鉢の内外――水の所在が判らないため、彼等の所在も水中か空中か判然としない。永い間ぼうっとそれを眺めていると、おぼろげな彼等の身体がゆっくり煙に変態していく。  夢。

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      【在る土】 遺灰と混ぜて栽培すると在りし日のあの人を感じる植物が生育する土。姿は異なり話すことも出来ないが判然と感じる存在。 【阿鏡吽鏡(あきょううんきょう)】 阿鏡と吽鏡を合わせ鏡にすると八百万の鏡世界が映される。そのひとつひとつに異なる世界線のあなたが存在する。中へ立ち入れば多種多様な自分と対面対話が可能であるが、何が起きても自己責任だ。 【エズ闖入の指輪】 絵画の世界に立ち入ることが可能になる指輪。後ろを振り返ると画家がいる。彼/彼女の眼界に映る情景、映らない

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        「あれ? あんな所に草間彌生がいる?」と思って近付いてみると……【クサマオオテントウムシ】 【カマチョカメ】 飼われている個体は頻繁に自ら裏返り起き上がれずにバタバタする。これは野生環境では見られない行動である。あなたを信頼している、あなたに構ってほしいのだ。 【カマカリカマキリ】 同種の雄同士で争い、倒した相手の鎌を奪い取る。より多くの鎌を持つ個体が雌に気に入られる。 【着猿(きざる)】 服を着る猿。ヒトが捨てた服を拾ったりお店の商品を盗むことで入手している。或る

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          【カクギュウ】 野山で尻から血を流して倒れているヒトを見つけたら気を付けよう。獰猛な一角獣が近くにいるぞ。長く鋭い角で執拗に肛門を狙ってくるのだ。 【ゲンゴンジー】 独自の言語、文字を扱うチンパンジー。どの群れにも他より一回り大きく毛並みや色が幾分異なる個体が一匹だけおり、本を一冊抱えているがその内容は未だ解明されていない。 【オトシモグラ】 集団で協力して深い落とし穴を作る肉食のもぐら。ヒトや獣が罠にかかると上から土で埋めて、動けなくなった獲物を喰らう。一度落ちれ

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          【裏側動物園の入場券】 この世界の裏側にある動物園へ入場できるチケット。そこには龍やペガサス、イエティ、ツチノコ、カッパ……様々な未確認生物、架空の生物が存在する。 写真・動画の撮影はご遠慮下さい。 【ピラミッドRHの鍵】 これまで一切探索されていない、唯一の立方体型ピラミッドの入口を開錠する鍵。開けるならば覚悟することだ。歴史の教科書を根本から作り直すことになる。 【ペンダント『終年』】 これをつけると触れた動物に使用者の寿命を分け与えることが可能。遥か西の或る

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          【天地雲泥】 林檎程度の大きさをした球体の鏡。これを放り投げて砕くことで天と地が逆転する。見上げた先に広がる都市街並みの情景、星空を歩き踏み締める足裏の感触、さあご自由に堪能あれ。 【ソキューガンカメラ】 自撮りをするとその場でプリントされる写真はタッチ画面になっており、指で操作することで自身の父母、祖父母、曽祖父母……と血の繋がりを辿って顔を写す。鮮明なカラー写真でどこまでも遡れる。 【愛憎反転・弾丸『愛』と『憎』】 .44口径の小型拳銃と弾丸。天に向かって2回発

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          平成元年。北海道の或る村に住む少年の父母弟が行方不明になった。村人総出で幾日かけて山中を探し回ったところ父母弟の顔をもつ三つ首の獣が目撃された。 【三つ首の獣(仮称)】 【水面水母(みなもくらげ)】 淡い光を放ち水面に浮かぶクラゲで、人が乗っても沈まない。時折り岸から沖の方へずらりと連なり、これに誘われ沖へ渡った子どもが戻って来ない事件が起きる。 【浮蜘蛛(うきぐも)】 空中を浮遊するクモ。細く見えにくい糸を地上に向かって垂らす。ヒトが糸に触れると瞬く間に首を幾重にも

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          架空生物 新種を発見しました (2)

          【ハンハンコアラ】 24時間常に半醒半睡で母コアラの夢に浸かっており温もりを求めている。ペットとして飼えば寝ぼけながら飼い主に密着してくる。 【スケルトンアナコンダ】 丸呑みした獲物の姿が透けて見える全身半透明の蛇。過去に芸術家が成人男性を丸呑みさせて、恐怖に染まった絶望の表情を腹に浮かべるスケルトンアナコンダを作品として展示し大問題となった。 【クログロホタル】 光を奪い闇を生み出すホタル。時折り数百億から数千億大量発生して数日間辺りを暗黒で包み込み昼は訪れない。

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          【月雫を呼ぶ声】 満月の夜、月明かりにしばらくかざすと月の雫を一滴だけ受け止められる、砕けた瑠璃色をした点眼容器。雫を眼球に落とし瞼を下ろすと刹那、あなたは月面から地球を眺めている。 【爪巾着】 手指の生爪をすべて剥がして巾着袋の中へ入れ、1万回巾着を揉むと生爪は粉末になる。これを水で喉へ流し込めば紛失したリモコンの場所がわかる。 【万癒一輪(ばんゆいちりん)】 この花器に水を注ぐと現世には存在しない花が一輪生まれる。それはあなたの精神状態に合わせて処方されたもので

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          架空生物 新種を発見しました (1)

          【空海月(くうくらげ)】 空中を漂うクラゲ。五〇匹に一匹程度発光する個体がおり、産まれる際に全七色から運命が決まる。東方の或る国では発光する個体を多数集めて夜に放つ祭りが開かれる。夜空の海を、ぷかむぷかむと七色がたゆたう。 【女王袋鼠(じょおうかんがるー)】 数千年生きている巨大なカンガルー。腹部の袋の中で100~200頭程度のカンガルーが群れで生活しており、当然袋の中にいることは知らない。女王が倒れるとき、世界の終末か。 【クロレキシオウム】 ヒトの記憶を読み取り、思い

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          【雨の箱】 片手で持てる大きさの立方体の箱。耳を近付けると雨音が聞こえる。箱の中では雨が降る。あなたの心に従い雨模様も変化する。 【雪器】 雪の結晶をひとひらだけ保管できる透明な容器。氷晶の時間を止め、溶けることはない。 【心奥の飴】 あの頃を想起しながら舐めると当時の感情がよみがえる。初恋のドキドキ、海外旅行の興奮、子供の頃の冒険心、富士山頂の達成感、親に抱っこされた安心感、夢を目指した初期衝動、別れの寂しさ。それは心の時間旅行か。 【カルツェッタの眼球】 激痛に身悶

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          泉  隙間なく窮屈そうに茂る樹木たちの中をまるで満員電車から降りるように掻いくぐってなんとか抜け出すとそこには温泉。秘湯である。 老爺がひとり気持ち良さそうに、鼻汁たらして浸かっているのが見える。 「いいですねえ」  声をかけるともなく呟いたら、老爺は幸せ顔をそのままこちらにくれた。 「ぼくもお邪魔してよろしいですか」  二言目が漏れていた。 「まああなたがね、入りたいっていうんならね、止めませんね」  ぼくは早々裸になると飛び降りるように両足から入り一気に肩まで浸かった。

          巨大樹のナマケモノ

           男は今日も樹の幹を蹴っていた。  神が宿るとされている巨大な樹。見上げると長くぶっとい枝々に無数のナマケモノがその長いかぎ爪で悠々つかまったまま死んでいる。しばらく見ていると時折り「ぼと、ぼと」と腐り落ちてくるものも出てくる。地上からは見えないこの樹のてっぺんにいる体長6m体重3トンの古代ナマケモノが落下したときが世界の終末である。

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          花火に水差す

           たしか当時9才。  友人3人と。すっかり夜も更けた時間帯。公園に集まって花火をした。  こんな夜に子供だけで外で遊んでるんだと気持ち高ぶる。  連発、噴水、打ち上げ、手持ち等々の花火。ワイワイワイ、愉快な気分でいるところで島田くん、  「あそこで」目と鼻の先にある団地を指さして  「先週あそこでおばあさん首吊って死んだらしいよ」  最後に線香花火をやった。線香花火の切なさってもっと情緒あるもんじゃなかったかなあ。  記憶ではこれが初めて〈水を差す〉の意味を体感できた日だった

          花火に水差す

          獣モ虫モ

           〈あうら〉という名前で路線の端っこにひっそりあるのが私の最寄りである。利用者が少ないせいかここまで電車が来ることはあまりなく、ひとつ隣りの〈クオウ〉止まりなことがほとんどだ。朝昼晩、各一回、日に三回。あうらに来るのはそれだけ。人と話すとクオウが終点だと思っている人が多く驚かれることが多い。「まだ先があったの」と。  それだから外出の帰りはクオウで降りることが多くなる。  今もちょうどクオウで降りたところだ。あうらまでの間は広い墓場で、人の音はおろか獣や虫の音も感じられないひ

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