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【小説】ペニー・レイン

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ロンドンのジャズ・クラブを舞台に、ぼくたちの夢が走り出す。 歌の好きな少年ディッキーを中心に、音楽と人とのかかわりを温かく描いた作品。 第五回ちゅうでん児童文学賞、奨励賞受賞。
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ペニー・レイン  Vol.2

    2  さえない日、ってのはだれにでもある。その週末の金曜が、ぼくにとってもキムに…

清水愛
3年前
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ペニー・レイン Vol.3

 気づくと、演奏は終わっていた。男の子は、サックスのつばをぬく穴を開けて、ふっふっ、と二…

清水愛
3年前
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ペニー・レイン Vol.4

 ふたたび、その私立学校に向ったのは、週末の晴れ渡った夕暮れだった。ぼくは、ひとりで校門…

清水愛
3年前
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ペニー・レイン Vol.5

 店の前まで来ると、キムがコワイ顔をして待っていた。ぼくがはた、と止まると、キムは上目遣…

清水愛
3年前
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ペニー・レイン Vol.6

  3  久しぶりに、楽しい夢を見た。  ぼくは、小人ぐらいの背になって、テーブルの上に…

清水愛
3年前
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ペニー・レイン Vol.7

 その夜は、夕方寝てしまったせいもあって、さっぱり眠れなかった。 「ねえ、マスター」   …

清水愛
3年前
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ペニー・レイン Vol.8

 ママが、歌手になるのを夢見て、イギリスからアメリカに渡ってきたのは、今から十七年前のことだった。ママは、十七歳だった。ニューヨークのクラブハウスでウェイトレスのバイトをしながら、ときどき歌を歌っていた。当時、〝パパ〟はそこでピアノ弾きをしていた。無口で、無愛想で、ピアノを弾くことしか興味がないかのように、生真面目な人だった。バーテン見習いだったぼくとも、言葉をあまり交わすことはなかったな。 「そんな彼が、ひと目で恋に落ちたのさ」  小さな顔に、長いまつげの大きな瞳。マーガ

ペニー・レイン Vol.9

 神様は、いじわるだ。  この世には、いろんなものすべてを手に入れている人と、ひとつ手に…

清水愛
3年前
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ペニー・レイン Vol.10

    4  彼女がやってきたのは、十一月の寒風が吹きすさぶ日だった。  それは、突然の…

清水愛
3年前
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ペニー・レイン Vol.11

 グレースは、ロンドン滞在の七日間、家に泊まることになった。彼女が来て、毎日が急ににぎや…

清水愛
3年前
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ペニー・レイン Vol.12

「ロンドン最後の夜が、こんな素敵な晩餐でうれしいわ」  グレースは、ちょっと冗談めかして…

清水愛
3年前
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ペニー・レイン Vol.13

   5  ぼくは、手紙を握りしめ、三段跳びに階段をかけあがった。そして勢いよく、キムの…

清水愛
3年前
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ペニー・レイン Vol.14

 その日は、エドの父も仕事から早く帰ってきて、エドの家族とぼくとキムとで食卓を囲んだ。テ…

清水愛
3年前
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ペニー・レイン Vol.15

 その部屋は、木の梁がむき出しになっていて、天窓があった。なんか屋根裏部屋みたいで、すてきな部屋だ。壁に、チャーリー・パーカーのポスターが貼ってある。そのとなりには、きちんとアイロンのかかった制服がかかっていた。壁際の棚にはレコードがつまっていて、プレイヤーもある。勉強机には、参考書がきちんと並べられ、ペン立てが置いてあった。今は使われてないみたいな感じだ。 「ここ、だれの部屋なの」  ぼくは、部屋を見まわしながら言った。 「兄さんの部屋」  キムが棚のレコードを見ながら言っ