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選ばれない大学?2023

3月になって、2023年度新入生向けの入学試験がひと通り終了した。あとは入学式を待つばかりである。大学業界全体についての見通しは、語るべき人が語り、論じたい人が論じたらよいが、勤務先の大学(中堅中規模女子大)の状況に限定して、現状と今後を考えてみたい。

まず私の所属する保育・教育系学科について。よくない。とてもよくない。定員割れした2022年度の1年生の人数から、さらに2割程度割り込む予定だ。

ブラックイメージが定着してしまった先生・保育士のお仕事。最近見かけた進路希望決定時期に関する調査では、保育士や先生を目指す学生さんの結構な割合が、小学生ぐらいまでに最初の進路希望を抱いて、その後もずっと先生の仕事を目指し続けてきた人たちだという。進路決定が「13歳のハローワーク」よりもだいぶ早いな、という印象。。

子どもたちにとって、身近な大人、身近な仕事の筆頭が「先生」なのだから、子どもたちの「将来なりたい仕事」上位に「先生」が来るのは当然だし、ランキングなどもよく知られている。ところが、保育教育系学科の志望者が減少しているということは、大学の受験先決定までに「先生ではない別の仕事の優先順位が上がらず、初志貫徹した人」の割合が減っている、という言い方ができそうだ。別の言い方をすれば、中学高校と過ごす中で、保育士、幼稚園小学校の先生という仕事を目指さなくなった人が増えた、という言い方もできるだろう。

受験者の減少は、先生や保育士の仕事のブラック労働のイメージ悪化も原因なのだろうけれど、コロナ禍の影響も否定できない。教育や保育は、結構ダイレクトな対人サービス業だ。オンライン授業とかもあったけれど、基本、対面。朝から晩まで密集密接。コロナ禍で人と関われない、子どもと関われない状況が3年続いた影響は看過できない。

これまで受験生の志望動機を聞くと、中学や高校で、近隣の保育園や幼稚園を訪問して、子どもたちと直接関わる実践的な授業の経験を話す子が多かった。こうした経験がゴッソリと減ってしまった結果が表れてきている、と考えられるのではないか。皮算用かもしれないが、中学や高校で、子どもたちと関わる経験の機会が回復していけば、受験者数が多少回復する可能性があるのではないか、と期待したいところだ。

自学科ではないが、同様に志望者を減らしているのが心理学系。対人関係に悩んだ経験などを志望動機に挙げる人が多い印象。コロナ禍の影響が大きそう。ゼロではないが、ポストコロナの頃に比べれば、コロナ禍での対人接触の制約は、「人間関係の悩み」を「孤独の悩み」に置き換えた可能性がある。同様に社会学系も厳しい。コロナ禍の3年間は、人と人のつながりを物理的に絶っただけでなく、社会への関心も大きく阻害したので当然と言えば当然か。

一方で、コロナ禍における中高生の「孤独の悩み」を埋める形で志望者を増やした学科が、生活系学科とメディア系学科である。「おうち時間」の充実にともなって、中高生の大学志望傾向に大きな影響を与えた可能性は否定できない。インテリア、料理、家具、住宅デザイン、菜園。そしてアニメ、ゲーム、漫画、SNS、写真、動画。。

加えて女子大志向の低下。ここ数年のジェンダー意識の大きな変化は、女子大の社会的な意義にも大きな影響を与えている。加えてコロナ禍で対人接触が減少すれば、多感な中高生時代にネガティブなジェンダーバイアスやジェンダーギャップを意識させられることが少なかったため、敢えて女子大を選択肢に加える必要が低減したのかもしれない。女子のニーズが比較的高い文学部系学科も、海外留学・国際交流が閉ざされた3年間の影響は甚大だ。

少子化の急加速による全入時代では、受験生の優先順位の上の方に食い込めるだけのポジティブな存在意義を打ち出せていない。毎年、何万人もの海外からの留学生が埋めていた座席は、コロナ禍でぽっかりと空いてしまった。イス取りゲームとしての大学入試において、留学生の不在によって空いた座席は日本人学生が上方移動して埋めていく。低位の大学、地方の大学から、空席率(定員充足率)が悪化していく。

コロナ禍のネガティブな影響から回復するには、コロナ禍の3年以上の年月がかかるだろう。そしてその頃には、大学を受験する18歳人口は、今よりさらに1割ぐらい減っているのだ。。

結論:当面、中堅中規模女子大にとって、ポジティブな材料を見つけることはできなさそうだ。。。


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