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「鯉のダンスサイト」

かつての漁村で今は観光地になっている小さな町。この町の特色といえば、「鯉のダンスサイト」というサービスだ。それは人工知能を使って鯉の動きを模倣したダンスを提供するウェブサイトで、町おこしの一環として製作された。いつしかそれはSNSでバズり、若者たちの間で流行っていた。

一方、町の外れに「しったか鰤」というお店があった。店主の遠藤さんは、いつしか町の人々から「しったかさん」と呼ばれるようになり、自慢の鰤を町の人々に提供していた。

ある日、鯉のダンスサイトが大きなトラブルを起こした。何の前触れもなくサイトがダウンし、ダンスを模倣するAIが動かなくなったのだ。問題を解決できず、町はパニックに陥った。

その頃、遠藤さんは店の前に座り、いつものように鰤をさばいていた。それを見た町の若者が一人、鯉のダンスサイトの話を始めた。「しったかさん、AIって何ですか?」遠藤さんは鰤をさばきながらゆっくりと答えた。「う~ん、それは人間の思考を模倣するプログラムのことさ」

若者は不満げに頷き、それから別の質問をした。「じゃあ、鯉のダンスサイトのAIが壊れたら、どうすればいいんですか?」遠藤さんは鰤を見つめながら考え、少し微笑んだ。「それなら、本物の鯉の動きを見て学べばいいんじゃないか?」

若者はそのアイディアに驚き、すぐに町の人々に知らせに行った。みんなで池の周りに集まり、本物の鯉の動きを見つめ、その美しさに感動した。そして、その動きを元に新たなダンスを創り出した。

それから数日後、鯉のダンスサイトは再び稼働し、元の人気を取り戻した。しかし、町の人々はもうそれに頼らなくなっていた。彼らは自分たちで作り出した新たなダンスを楽しんでいた。

その頃、遠藤さんはいつものように店で鰤をさばいていた。彼は微笑みながら若者たちのダンスを見ていた。そして、ひとりごとのようにつぶやいた。「AIじゃない。それが人間の力だ」遠藤さんは、そう言い残し、また鰤をさばく手を動かし始めた。

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