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「虎馬」

「ジャングルに虎がいる」と、村人たちは囁いた。その虎は攻撃的で、村の馬を次々と襲っていた。馬たちは次第に減り、村の生活は難儀するばかりだった。

村の長は若き男、カイに命じた。「虎を討つのだ、カイ。君ならやれる」

カイはその言葉を受け、虎討伐の道を選んだ。カイは身も心も強く、また馬を愛し、彼らの安全を守りたかった。そんな彼が村を出て行くと、村人たちは彼を祈り、静かに見送った。

数日後、カイはついに虎を見つけた。しかし、その姿は思っていた虎とは異なっていた。虎はやつれ、体は負傷で満ち、目には恐怖が宿っていた。

虎はカイを見ても逃げなかった。カイはそれを見て、虎が怪我で逃げられないことを理解した。しかし、同時に不思議に思った。虎が何故、そんな状況で馬を襲ったのか。

そこでカイは近くの村人に問いかけた。「虎が怪我をしていた。何故だと思う?」すると村人は顔色を変え、「それは…」と言葉を途切らせた。

しばらく後、カイは事実を知った。その虎は以前、村人たちに捕まり、戦うために無理に訓練されていた。しかし、虎は強制される戦いを拒み、その結果、村人たちに虐待され、傷つけられた。

虎は逃げ出し、飢えと恐怖から馬を襲ったのだった。それを知ったカイは、村人たちに対する怒りと、虎に対する同情とで胸が張り裂けそうだった。

「だから何?」村の長はそう尋ねた。「虎が馬を襲った事実は変わらない。それに対する罪は許されない。」

カイは黙って村の長を見つめた。そして、「私は虎を討つつもりでここに来た。だが、このままでは馬だけでなく、虎もまた被害者だと思う。」カイはそう言った。

「だからどうするつもりだ?」村の長が問うと、カイは頷いた。

「私は虎を討つつもりはない。代わりに、虎を育て、信頼関係を築き、共に生きる道を見つけるつもりだ。そして、この村のトラウマを癒す手助けをする。」

村人たちは驚き、そして多くがカイを支持した。以降、村と虎は共存を始め、互いに理解と尊重の元で共に生きるようになった。そして、カイが虎と一緒に過ごすうちに、村人たちも徐々に虎に対する恐怖を克服し始めた。

そしてある日、馬が虎に近寄り、二つの頭が優しく触れ合った。それは村人たちにとって、驚くべき光景だった。虎と馬が共に生きる。これは、かつての恐怖から進化した新たな共存の形だった。

予想外の道を選んだカイの決断は、村と虎、そして馬たちを新たな未来へと導いた。それは、ただ戦うだけではなく、理解し、共に生きることの価値を教えてくれる物語となった。

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