第8話「愛しいあの子」

「あ!そういえば今日は愛しいあの子の誕生日か!
それで俺が、薪割り担当なのねぇ〜。」

玄関に着き、水桶を降ろした途端、

”ひらめいた!”
と言わんばかりの顔で、アオ兄がこっちを見る。

「アオバ様の優秀な弟、ヨウ君は、
もちろんちゃぁんと作戦を、練ってるんだろうなぁ〜?」

今日一番のニヤニヤ顔を、向けてくる。

「なっ、何が”愛しいあの子”だよ!ただの幼なじみ!」

赤くなりそうな顔を必死で抑えて。
顔を背けることで、何とか誤魔化す。


…見られて…ませんように。


「はいはいっ。
じゃあまあ、家のことは俺に任せて!

夕方の誕生日会までに…今日こそ覚悟、決めてこいよっ!」

顔をそむけてたから。

必然的に、アオ兄に向けるはめになっていた、無防備な背中を。
軽く、”パンッ”と、叩かれる。


ーー覚悟。

…そうだ、今日こそ。

…俺は、言う!言ってやる!


「じゃあ...ちょっと出掛けてくる。」

そそくさと家に入り、準備を済ませ玄関に向かう。


いまだ水桶の近く、
玄関口に立っていたアオ兄が

「いってらっしゃ〜い!

ーーヨウの笑顔は太陽だから。自信持てよ。」

俺には絶対、
言う事のできないような、恥ずかしいセリフを。

真っ直ぐに、俺の目を見て。
真剣な表情で、伝えてくる。


…かと、思ったら

「ま、何事も、当たって砕けろってことだよ。」

コロッといつものニヤニヤ顔に戻り。

今度は痛いくらいに、”バシィッ!”っと、背中叩かれた。


「くっ、砕けないよ!」

そう!
砕けないために…

…ミッションを、クリアする!

「いってきます!」

頭の中で、再度作戦を確認しながら。

いつもより浮き足だつ気持ちを抑えて。
麓の街、ジャアナへ向けて、山を降り始めた。


ーーー【黒の再来】まで、あと8時間21分ーーー

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?