第7話「水汲みは2人で」
「そういえば仕事、ちゃんと上手くいってるの?」
俺より少し後に食べ終わったアオ兄と一緒に、
食器を洗う水を汲みに、家のすぐ近くの井戸へ向かった。
その道中、
特に気になっていた訳では無いが…何となく。
仕事について、質問をしてみた。
…いや、本当は、何となく…じゃ、ない。
さっき父さんのことを、思い出した時…
アオ兄一人に頼りきりのこの生活が、
少し…申し訳なく、なったからだった。
「そりゃもうバッチリよ!
俺のリュウマは、優秀だからねぇ。
さっきもばっちし!予想以上に実ったよ。」
チカラの効果が発揮される”実り”までは見ていなかったけど。
あの後すぐ、いつものように、木にはたくさんの果実が実ったらしい。
アオ兄の、”深緑のカラーズ”から発現した”オーバーのリュウマ”の炎には、
生命を癒したり、成長を促したりする”チカラ”がある。
さらに言うと、
その炎に促され実った果実自体にも、炎よりは劣るが、同じような力が宿る。
こうした”癒やしのチカラを保持した果実”は、アオ兄の仕事の中でも、よく依頼されるものの1つだ。
「依頼された分以外はジャムにして…保存がきくようにしてから、配るつもり。
そろそろ毎日山を降りるの、キツくなってきたからねぇ〜。
ってか、毎年毎年、ミタ山の夏、暑すぎでしょ!」
昨日からいよいよ8月。
ここ、ミタ山で、最も山頂付近に暮らす俺たちの家から、
山の麓のジャアナの街まで…片道、だいたい歩いて2時間。
さすがに毎日降りるのは…厳しい季節だ。
「アオ兄も、歳には勝てない…か。」
「誰がオジサンだってぇ?」
コツッと、頭を殴られる。
もちろん、その顔は全然怒っていない。
「そういうヨウの方こそ!
昔っから夏、グッタリじゃん。よく親父と、水遊びしてただろ。」
そう言われて、自分の中にある、幼い記憶を引っ張り出す。
今日みたいに暑い日...たぶん6歳くらいか。
父さんが満面の笑みで…
俺に…
…水を、ぶっかけてくる。
「…父さん、イジワルだった。」
「はぁ?!どんな記憶だよ。」
「アオ兄とそっくりな、ニヤニヤ顔で…。水、ぶっかけてきた。」
それを聞いて、アオ兄はニヤッと笑う。
「違うちが〜う!
ニヤニヤ顔じゃなくて!
『ヨウが愛しいな〜』
って顔に、決まってるだろ?」
そう言って向けてくるキメ顔には…
…確かに、父さんの存在も感じられて。
「本当に…。
…父さんも、そう思ってくれてたなら。
まぁ…悪くない、かな。」
俺は、笑って答える。
「…思ってたよ。当たり前だろ。」
アオ兄も、俺と同じ顔で、そう言った。
「さ〜て、はやく帰って、薪割り薪割りっと。」
元気よく水桶を担ぎ、アオ兄は来た道を戻り始めた。
その背中を追って、
父さんのオーバーである”黄緑色のドラゴン”を思い出し…
…俺は、寂しくても…温かい、気持ちになった。
ーーー【黒の再来】まで、あと9時間と16分ーーー
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