第23話「ついに、迎えるーー」
「奥の手、と聞こえたので。
用心して、この距離から…。勅令するーーノエル、舞い狂え。」
また、あの猛吹雪が、ブレイズの周りを包む。
どんどんと、吹雪が大きくなっていく…。
…確実に、俺たちを消すために。
俺は…アオ兄を抱きしめる腕に、さらに力をこめた。
置いて逃げるなんて、できない。
絶対に、離さない。
最後くらい…俺だって、アオ兄を守りたかった。
「アオ兄、ごめんっ。」
泣きながら、続ける。
「チカラのっない、無能なっ弟で、ごめんなさいっ。」
ずっと、ずっと、謝りたかった。
今日だけじゃない…俺はずっと、アオ兄に守ってもらっていたから。
「アオ兄、ありがとう。
…チカラのない俺を、ずっと守ってくれて。ありがとうっ。」
そう言って、最後にアオ兄を抱きしめる。
「俺、アオ兄が大好きだから。
もう、頑張らなくていいからっ。…最後まで、一緒にいさせてよっ。」
俺は最後まで、ただ…泣きながら。アオ兄を抱きしめることしかできなかった。
「ーーヨウの笑顔は…、太陽だから。」
アオ兄の声が、耳元でハッキリと聞こえた。
「ほんとに…最後だからさ。
…ヨウのとびっきりの笑顔、見せてくれないかなぁ。」
肩を掴んで、抱きしめていたアオ兄を引きはがす。
笑顔のアオ兄の………
…瞳は。今まで見てきた中で、一番、”深緑色に”輝いていた。
「だめだっ!」
直感で、アオ兄が、その消えそうな命を…最後に、燃やしつくそうとしているのが分かった。
「死んじゃっ!いやだっ!!」
ずっと怖くて口にできなかった、”死”という言葉が、口から溢れる。
…まただ。
また、俺を守って、家族が死のうとしている。
また、”あの日”みたいに…。
「俺は、もう、いいんだっ。」
(俺も、今度は一緒に…。)
「置いていかないでよ!!!」
俺は、無我夢中で叫ぶ。
でも…、アオ兄の瞳は…チカラは、止まらない。
「俺が死んでも…ヨウが無事なら。兄ちゃん、すごく嬉しいなぁ。」
アオ兄は笑顔で、俺に”1人でも生きて欲しい”と言う。
「ヨウは、無能なんかじゃないよ…。
ヨウの兄ちゃんとして、一緒に過ごせて、本当に幸せだった。俺のことは忘れて…幸せにな。」
アオ兄が、どこにそんな力が残っていたのか、
俺の腕を強く掴んで、ボロボロの身体を起こそうとする。
アオ兄の身体はボロボロなのに…いつの間にか血が止まり。
代わりに、じわじわと…濃い、深い深い緑色のモヤが、溢れてくる。
「やめてっ!やめてくれぇっ!」
俺を掴んで起き上がろうとする、”死ぬ”、決意の溢れる、
その力強い手を引き剥がす。
俺は頭を、何度も振り回す。
何度も何度も何度も何度も何度も。
「いやだ!いやだ!いやだ!!」
どんどん、周りが濃く、深い緑に覆われる。
アオ兄の顔も…もう、見えない。
「さよならだ。」
モヤの中から、優しい声。それと…
「最後まで…すごいチカラです。私も、本気でいきます。」ブレイズの、厳しい声。
ーーもう、何も分からない。
ただ、生きていてほしいだけなのに。
自分よりも…大好きな、この人に。
自分以上に、アオ兄に、生きていてほしい。
俺は、守られたいわけじゃないんだ。
ずっと守ってくれてたこの人を…本当は、ずっと、守りたかったんだ。
ずっと守ってくれたアオ兄を。
最後くらい…最後だからこそ…
チカラのない、俺でも…
「やめろぉぉぉぉぉおお!!!!」………守るんだ。命に替えても。
ーーブチンっ。
ーーー頭の中で、そう、聞こえた気がした。
瞬間
ーーー””ドォォォォオオオン!!””ーーー
ーーー【黒の再来】を、ついに、迎えるーーー
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