第30話「三者三様な隊長」

「うーん、申し訳ないんだけど…。俺は、”アオ兄”じゃ…ないよ?」

そう言って笑う…目の前にいる、この男は…一体、誰だろう?
俺は、その全く馴染みのない人物を…じっと、観察してみた。

歳は…20歳半ば、くらいだろうか。
色素の薄い、白のような、銀のような髪は…無造作にハネていて。
ニコニコと、人懐っこい笑顔で、こちらを見ている。

そして…やたらと、”真っ黒な”軍服を、着ていて。
ホワイトノーブルの軍服に、形は似ているけど…
でも、その色は、全く違う。そんな、真っ黒な軍服を、何だかラフな感じで、着こなしていた。

こうやって、じっくりと観察してみても…

(知らない…人だ…。)

そして…

「そういうことじゃないでしょ。誰も、ノヴァン隊長のこと…アオバ君だなんて、思いませんよ。」

やれやれ…とため息を吐き、

「ヨウ君…ですよね。こんな状態で…すみません。」

申し訳無さそうに、俺の椅子の左前に立つ人物。この人も…

(やっぱり…知らない人、だ…。)

歳は…20歳前後だろう。さっきのツンツン頭…ノヴァン…と呼ばれていた人よりは、絶対に若い。
身体も、ムキムキなノヴァンに比べて、この人は、華奢な感じで。ぱっと見…女の人、みたいだった。

髪はサラサラで、少し長めで…青みがかった黒色。黒縁の眼鏡を掛けていて…
…その雰囲気は、どことなく…アオ兄に、似ている。


そして彼もまた、ノヴァンと同じ、真っ黒な軍服を。
ただし、ノヴァンと違って、”ピシッ”と、着こなしていた。

「あ、あのっ…「まったく、サクったら〜、簡単に謝ってんじゃないわよ〜!」

俺の発言は、右奥の扉から突然現れた…華やかなお姉さんに、遮られた。

突然現れた彼女も…やっぱり、真っ黒の軍服を着ている…んだけど…

…目のやり場に、困る…着こなし方だ。


俺は、ピンク色の髪をなびかせ、陽気に話すお姉さんを、直視できなくて。パッと下を向く。

「サ〜ク〜ヤ〜。あんたねぇ!それでもアタシと同じ、”深淵の黒色隊=ブラックアビス”の隊長なのぉ〜!?」

「…ハナ。お前は昼間っから…酒瓶片手に、何やってんだ…。」

「遅れて来たと思ったら…。ハナさん、酔いが覚めるまで、出てってください。」

ハナ、という女の人の…おもに胸元から。目をそらしている間に。

彼女は、ノヴァンとサクヤと呼ばれた2人に押し出され、
入ってきた扉から…あっという間に、外に追いやられたみたいだった。

「あ、あのっ…!ここは…。」

2人が、ほっと一息ついた時を見計らって。
俺は、さっき遮られた言葉を、もう一度投げかけてみる。

どう、声をかけたらいいのか…迷ったけど。
ひとまず、優しそうな…サクヤという人に向けて、話しかけてみた。

「俺は…。ア、アオ兄は…みんなは…どこに…?」

そう、アオ兄…!
この人たち…、さっき、俺と…アオ兄の名前を、言っていた。

だったら…

「アオ兄はっ、どこですか?!」

俺は、必死になって。いまだに姿の見えない、
意識を失うその時まで…すぐ近くにいた、大切な兄弟のことを、質問した。

「アオバ君のこと…。そして、ヨウ君。君自身のことも。
私達は…話し合う必要があります。ですが、今は…

…こんな状態で。本当に…すみません。」

サクヤ…という人は、また、俺に謝った。

(こんな…状態?)

改めて、俺は…今の自分の状況を、確認…してみる。

「…えっ?」

木の椅子に、座らされている、俺の…

…両方の手足は、何故か…椅子に、ガッチリと固定されていて。

身動きが…全く取れない状態だった。

「な、なんで…!?」

拘束…されて。
これから、自分の身に…何が、起こるのか。

「まぁ。”簡単に”言えば…選択肢は2つ、だな!

…”生きる”か、”死ぬか”だ。」

正面に座る男…ノヴァンは、そう言って。

「お前に…選ばせてやるよ!」

…嬉しそうに、そう、言った。

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