第二章(新しい世界):第29話「紅の光の中で」
「…んっ…。」
頭が…ぼーっとする。
ここは…どこ、だ…。俺は…。
俺は…。
ーー『…戻ってこい、ヨウ…。』
ーーー『俺は、ずっと…。お前の、そばにいるから。』
…そうだ、俺は…あの時…、確かに…。
「…ア、オ兄…。」
まだ…ほとんど、無意識に。
ぽつりと、声に…出してみる。
そのまま、少しずつ覚醒してきた頭で…。
自分に起こった出来事を、思い返していく。
あの時…。
ブレイズから、アオ兄を…ヒマリを…守りたいと思った、あの時。
何も分からなくなって、周りが真っ赤に染まっていって…。
俺は…包み込まれた、その深紅に。ずっと…身を任せていた。
何も考えず、ただ、自分を包む、濃い深紅のモヤを、見つめて…。
どれくらい…、そうしていただろうか。
ある時、突然。
その深紅のモヤの中から…アオ兄が、飛び出してきて。
俺に近付いて…抱きしめてきて。
俺の肩口に、顔を埋めて。
強く強く、抱きしめながら…。
ーー『…戻ってこい、ヨウ…。』
ーーー『俺は、ずっと…。お前の、そばにいるから。』
そう、つぶやいたから。
俺は…。
『うん。俺はずっと…アオ兄と、一緒にいるよ。』
そう、答えたんだ。
そしたら…目の前が暗くなって…夜に、なって…。
そう、夜の森の中…、
立っていられなくなって…俺は、その場に…倒れた。
意識を手放す直前。
夜空を背に、アオ兄が…いつもの、ニヤッとした顔で…。
俺の方を…見下ろしていたような、気がして…。
「…アオ兄っ!!!」
俺は、回想から完全に覚醒した頭で、こう叫んだ。
「うーん、申し訳ないんだけど…。俺は、”アオ兄”じゃ…ないよ?」
そう言って…、目の前の男が、笑いかけてくる。
薄暗い室内…。どこかの…地下室、だろうか?
俺が…何故か座らされている椅子の、ちょうど正面。
正面にも、椅子があって。そこに座ってこちらを見る、この男は、一体…誰だろう?
…やたらと、”真っ黒な”軍服を、着ている…この男は…?
俺は、わけもわからないまま。
嬉しそうにこちらをみる、その男から…
…不思議と、目をそらせないでいた。
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