第一章(あの日、再び):第3話「消えていく1日の始まり」


真っ赤な鳥が、消えていく。手を伸ばしても、届かなくて…。 

ーーー【黒の再来】当日の朝ーーー


「ヨウは、ほんっとに諦めないのなぁ。」

ぼんやりと覚醒していく頭に、聞き慣れた声が染み渡っていく。

…と同時に、状況を理解して

「くそっ、またかよ!」

”いつものように”アオ兄に膝枕されている自分が情けなくなって、ガバッと身を起こした。

「もう少し寝ててもいいんだぞぉ?」
つい今まで、俺の頭を撫でていたらしい手の親指を”グッ”と立てながら。

俺の兄”アオバ・オリーヴァー”は、笑顔で提案してきた。

「もう大丈夫だよ…。」
俺はやんわりと断って立ち上がる。

ここは俺たちの家のすぐ横、小さな庭の中心に生えた、一本の大きな木の根元で。

ここで、毎日の日課である朝の特訓に励んでいた俺”ヨウ・オリーヴァー”は、”また”気絶してしまったらしい。

そんな俺を(これまた最近は日課になりつつあるが…)アオ兄が、介抱してくれていたようだ。

「ありがと。…今日も俺が倒れるとこ、見てた?」

「もち!今日はいつもより早かったなぁ。」

弟の特訓を覗き見していることについては、特に悪びれる様子もなく。ニコニコと嫌味のない笑顔で返事をされた。

…街の女の子達なら喜ぶ笑顔も…今の俺には、その整った顔立ちすら恨めしい。

「あ!ヨウったらまたその顔!さては怒ってる〜?」

つい顔に出ていたのだろうか。アオ兄は相変わらずの笑顔で弁解する。

「毎日見ちゃうのも、可愛い弟を心配してこそ!だからさぁ〜。そんなに怒っちゃイヤ~よ?」

「…はいはい、怒ってない怒ってない。
…最近は、やり過ぎなのかな。ほんとよく寝ちゃうし。介抱自体は…助かるよ。」

正直覗かれるのは不本意だが…。
まぁ、特訓が実を結ばない苛立ちを、アオ兄にぶつけても仕方がないか。

「ほら、寝ちゃうのも、”チカラ”が目覚める前兆、かもしれないしさ。気長に頑張れよ〜。
…あ!前兆って言っても…。俺は、特訓で寝たことなんて、一度もないけどねっ。」

いたずらっ子のようにウィンクされ…やっぱり腹が立ってきた。

「ったく、どうせ見るならアドバイスしてよ!
…いや、やっぱいい。アオ兄に頼らなくても、今にアオ兄より凄い”発現者”になるから!」

そう言って、アオ兄には目を向けず、庭から玄関へ足早に歩き出す。

…ちょっと冷たすぎたかな、と後ろを振り返る。

「さっすが俺の弟!頼もしいねぇ〜。」

目があったアオ兄は、爽やかな笑顔のまますぐに俺に追いつき。容赦なく頭をくしゃくしゃに撫でてきた。

「ちょ、ちょっとっ!」
アオ兄のサラサラな黒髪と違い、俺の髪は同じ黒でも微妙に癖のある猫っ毛なのに!

「ヘンなっ、あとがっ、付くだろ!」何とかしてその手から逃れる。

「昔はよく『頭なでて〜。』っておねだりしてきたのにぃ。兄ちゃんさみし〜。
あっ!まさか照れてる?ヨウも、もうそういうお年頃か〜。」

ウンウンと、勝手な解釈に納得した様子で話を続ける。

「最近”俺”なんて使うようになったしなぁ。
うん!今後のヨウは、”かっこいい路線”ってやつなのね!」

ずっと嬉しそうに頷きやがって…。
歳は4つしか離れてないのに、頭1つ分以上もある身長差も、今になって何だか悔しくなってきた。

アオ兄…にこやかだけど、ぜっったい俺のことバカにしてる。間違いない。

「子ども扱いするなって!もうっ…着替えてくる!」

くしゃくしゃにされた髪の毛を整えながら

(今後はこの能天気な兄でも分かるよう、もっとキツめに言ってやる…!)

そう、心に決め。

きっとまだ笑っているだろうアオ兄の顔は見ないまま、奥にある自分の部屋に向かった。

ーーー【黒の再来】まで、あと10時間36分ーーー

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