第27話「すれ違い」

「あと少し…、何か、”きっかけ”があれば…。」

…これは、誰の声?

何を言っているのかは分からないけど…

…頭に響く、この声を…私は、知っているような…。

「んっ…。ここは…?」

頭が、妙にボーッとする。
気だるい身体をゆっくりと起こし、ゆっくりと頭を振る。

(ここは…どこ?)

浮上する意識の中、視界の先にある、真っ白な軍服に気が付いた。
背中側から見ても分かる、見慣れたその隊服と、優しい銀髪…。

「ブレ…イズ、隊長…?」

いまだ覚醒しきっていない頭でも、その人が、昔から私達の平和を守ってくれている、
ホワイトノーブルの隊長…尊敬してやまない、ブレイズ隊長だと、すぐに理解できた。

「ブレイズ隊長…どうしたん、ですか…?」

まだ冴えない頭をおさえつつ、
今度はすこし大きめの声で、ブレイズ隊長へ声をかけた。

「…っ!ヒマリちゃん、気がついたんだね。」

良かった、と言い、私の元へ駆け寄ってくれる。いつもの、優しい微笑みで。
なんだかよく分からない状況だけど…その、ブレイス隊長の微笑みに、一気に安心するのが分かった。その時…

ーーードォン!!ーーー

近くで、ものすごい音がした。

あれは…

…あの、黒い塊は…何?

「…ヒマリ…ヒマリ…!ハナレ、ロ…!!!」

黒い塊だと思ったモノは、何かを呟いている。

いや…黒い塊じゃ、ない。

黒いモヤの中…よく見ると…誰かが、立っている。

「誰…?」

よく見ると、それは…

「…ヨ、ウ…?」

見間違える…はずがない。

【黒の誕生】で、お母さんを亡くして。
この山に移ってきて7年。ずっと一緒に育った、それは…間違いなく、幼馴染のヨウだった。

でも…

「目が…赤い…?」

それに…辺りを、真っ黒なモヤが包み込んでいる。

包んでいる、というより…あれは、まるで……漆黒を、”身にまとっている”、ような…。

「黒の…悪魔…?」自然と、そう呟いていた。

「ヨウ君…意識が…!

そうか…ヒマリちゃんのことは、”分かる”んだね…。」

ブレイズ隊長が、そうつぶやく。

「やっぱり…あれ、は…ヨウなんですか?!」

信じられなくて、私はブレイズ隊長に詰め寄った。

「…残念ながら、そう、みたいだ。ここら一体、私が駆けつけたときには、もう…。」

ブレイズ隊長は、申し訳無さそうに、私を見つめる。

落ち着いて…今まで気にする余裕が無かった、自分の周りを、よく確認する。

私達のいる森の中は…私たちのいる付近をのぞいて、もはや、森とは…言えない位の惨状だった。
木々は焼け焦げ、地面はえぐられ。

誰かが…何かが…戦闘が…、起きた、ような。

そして、”それ”は…。

ゆっくりと、私に、認識された…。

「うっ…。」

真っ黒に焦げた…人、が。

真っ黒な地面に、真っ黒に…焼け焦げた人が、横たわっている。
目をそらしかけた一瞬…

どこか見慣れたその姿に、視線が…止まる。

あの、横たわった人…あれ、は……

「お、おと…さん…?」………声が、上手く、出せなかった。

「ひ……。」

立っていられなくなり、ガクンと、その場にへたり込む。

…と、当時に「…っや、いやぁぁぁあ!!!!」

……出なかった声が、絶叫として。私の口から、溢れ出た。

「…ヒマリ…!!!ヒマリ…!!ヒマリ…!!ヒマリ…!!!」

私の絶叫と同時に、
赤い目の…漆黒を、身にまとったままの、ヨウも叫ぶ。

そして…

…ヨウの叫びに、呼応するように。その周りに、………雷が、降り注いだ。

ーーーバリバリバリッ!!!!ーーー

「危ないッ!」

ブレイズ隊長が、へたり込む私を抱きかかえて、ヨウから更に距離をとった。

「ここは…彼は、危険です。ひとまず、逃げましょう。」

私は、呆然としたまま。
立ち上がることもできず、肩を抱きかかえたままの、ブレイズ隊長を見つめて、問いかける。

「あの雷…。ヨウが…やったんですか?」

お父さんの、焼けた身体を思い出す。

ようやく理解が追いついて、涙が…溢れてくる。

「ヨウが…お父さんをっ、あんなっ風に?!」

泣きながら、叫びながら。
絶叫のような問いを、ブレイズ隊長にぶつけた。

「…君は、”禁色”と呼ばれる、珍しいカラーズの持ち主なんです。
黒の悪魔は、そのチカラの解放に…君のような、”禁色”のチカラを、必要と…するらしい。
ここまで、ホワイトノーブルは、突き止めていたのですが…。」

ブレイズ隊長は、私から目をそらして。地面を見つめて、ぽつりぽつりと話す。

「本当に…お父さんのこと、すまない。」

そう言って、ブレイズ隊長は、深呼吸をし…。

何かを、決意したような表情で。
地面から顔を上げ、まっすぐに私を見て…話を、続けた。

「私が、駆けつけたときには、もう…。
きっと君を、ヨウ君…いや、”黒の悪魔”から、守ろうとしたんでしょう。
今夜、ヨウ君と…2人きりになったり、狙われたりは…していませんでしたか?」

「狙われて…。」

今朝の、ヨウとの会話を思い出す。

『5時半に、いつものでっかい切り株のとこ、来てくれないか。』

…そうだ…約束の、大きな切り株…。

ヨウに、突然誘われて。私は、この場所に…たった1人で、座っていた。
約束を守って、1人、切り株に座って…ヨウを待って…。

そして…。
そうだ、あの時、背後から…誰かが、近付いてくる気配を感じて…。

…そこで、意識を、失ったのだった。

「…誕生日会の前に、どうしても、って。あれは…。」

みんなが来ると、何か都合が悪かったの?

そして、今朝の会話を…後ろで、偶然聞いていたお父さんは…。
ヨウの…”黒の悪魔”の…狙いに気付いて、私を…守ってくれた?だから…

自分の中で、今日、1日の出来事に、辻褄が…合った、気がした。

お父さんが、あんなに真っ黒で…ボロボロで、倒れているのも…全部、全部、全部、全部…

「…ヨウの、せいっ!!!」

自分の中に溢れてくる、激しい怒り…目の前が…”濃い、赤みがかった黄色”に…染まっていくのを…感じた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?