住宅価格高騰時代に考える「家を買う」お金の話
こんにちは。アイ建設です。
フランスで文学の博士号を取得して建設会社で現場業務などをしている担当が「ほんのり経済」の記事を書いてみました。
最後に書いた日本語の論文は15年近く前。日本語は難しいです …。
住宅価格の高騰
昨今、地価や建築用資材の価格上昇に伴う住宅価格の高騰についてのニュースをよく耳にするようになりました。
2024年春には建設業界にも「2024年問題」とされる時間外労働の上限規制の適用が始まることから、人手不足によるさらなる住宅価格の上昇も懸念されています。
こちらの記事では、愛知県設楽市のダム建設において「工期は週休2日導入で37カ月、工法見直しの影響も含めて8年延長し、総事業費は2400億円から800億円増えた」という事例が紹介されています。
こうした工事価格上昇の流れは今後、一般の住宅にも広がっていく可能性があります。
とはいえ実際、現在までに新築住宅はどれくらい値上がりしているのでしょうか。
こちらの記事では、具体的な市場価格として「不動産経済研究所(東京・新宿)によると、首都圏の新築マンション価格は23年4~9月に7836万円と5年前に比べて2000万円超高く」なり、「東京カンテイの調査では新築戸建ての平均価格は9月に4531万円と、同じく5年前から700万円ほど上昇した。東京23区は9009万円と14年4月の調査開始以来初めて9000万円を突破」との調査結果を載せています。
かつて、「住宅ローンは年収の5倍まで」などといわれていた時代もありましたが、現在の若年層の平均的な世帯年収を考えると、これも現実的ではなくなってしまいました。
50年住宅ローンが登場する時代
こうした土地や資材の高騰に伴う急な住宅価格の上昇が叫ばれ始めた頃、2022年8月19日には日経に次のような記事が掲載されました。
栃木県宇都宮市に本店を置く足利銀行が、諸条件はあるものの最大1億円の住宅ローン融資が可能で、融資機関を最大50年にするというものです。
これまでの最長35年から50年とすることで、「毎月の返済負担の軽減につながり、若い世代でも住宅を取得しやすくなる」との同行のコメントを掲載しています。
その後、2023年7月6日には以下の記事が掲載されました。
この記事では、福井県福井市に本店を置く福井銀行が「最長50年間借りられる住宅ローンを始めた」ことに触れています。福井銀行の担当者の話として「住宅価格が上昇するもとでも若い世代に借りてもらうためだ」とのコメントを掲載しています。
その後、2023年8月3日には以下の記事を掲載しています。
これまでは上記で述べた足利銀行や福井銀行といった地方銀行のみが提供していた50年住宅ローンを「ネット銀や大手銀では初めて」提供するというニュースを驚きをもって伝えています。
2023年9月6日には以下の記事を掲載しています。
この記事では50年住宅ローンを扱う金融機関として、足利銀行、福井銀行、住信SBI銀行に加えて、広島銀行(広島県広島市)、福岡ひびき信用金庫(福岡県北九州市)、西日本シティ銀行(福岡県福岡市)、常陽銀行(茨城県水戸市)、釧路信用組合(北海道釧路市)、沖縄銀行(沖縄県那覇市)をあげています。
35年ではなく50年の住宅ローンを選択することによって、ローンの総返済額は増えるものの、月々の支払いを少なくすることができます。
そして「長期の住宅ローンは銀行にとって若年層を開拓する手がかりになる」としています。
ここまでの担当者のコメントを見てみると「若い世代」が「住宅価格上昇」による「毎月の返済負担」を重く受け止めていることを、銀行側が不安に感じているようです。
確かに、住宅金融支援機構では満60歳以上対象の「リ・バース60」などシニア向けの住宅ローンも登場してはいますが、住宅ローンの主対象はやはり「若い世代」でしょう。
このまま「住宅価格上昇」が続いた場合、その価格で住宅ローンを組める「若い世代」がいなくなってしまうかもしれません。
「50年住宅ローン」の登場は「若い世代」を少しでも取り入れたい銀行業界と、「毎月の返済負担」を抑えつつ「住宅価格上昇」のさなかでも住宅を購入したい「若い世代」のニーズがうまくマッチした結果なのかもしれません。
とはいえ、「50年住宅ローン」に懸念がないわけではありません。
2023年9月19日には次のような記事が掲載されました。
ほとんどの銀行が「完済時80歳未満」の基準を設けています。つまり「50年住宅ローン」で50年間ローンを組みたいのならば、住宅購入時点で20代である必要があるということになります。
その点についてこの記事では「若年層の取り込みが狙いだが、完済時の年齢が92歳までの人を対象とするローンを扱う地銀もある」としています。
現に宮崎銀行(宮崎県宮崎市)などでは「完済時年齢は最長92歳」としているようです。
現在30歳の会社員が「50年住宅ローン」を組んだ場合、ローンが終わる年齢は80歳です。その頃の日本がどうなっているかはわかりません。もしかしたら80歳になってもまだまだ元気に働くことができているかもしれません。
ただやはり、記事でも触れられているように「退職時に残金を一括して払うとしても、十分な老後資金を確保でできるようにマネープランを練る必要がある」ことは確かでしょう。
このようにこれまで、住宅価格の高騰と住宅ローンの長期化について述べましたが、まだ忘れてはいけない視点があります。
家は「買って終わり」ではない
2023年2月25日にはこんな記事が掲載されました。
この記事では、「賃貸の場合の家賃」と「持ち家の場合のローン返済額」だけでなく、賃貸の場合の更新費や、持ち家の場合の固定資産税や修繕費なども考慮して計算しています。
賃貸の場合の更新費や、持ち家の場合の固定資産税などは契約時にある程度の目処がつくかと思います。
最も未知数なのが、修繕費の項目です。
こちらの記事では、持ち家の場合の修繕費は「600万円」としています。
建設会社として日々、リフォームのお見積もりを作成していますが、正直、これでは心もとないのでは?というのが正直な感想です。
以前、会社のブログに次のような記事を載せました。
一口で「持ち家」といっても、マンションか一戸建てかによって修繕費用が大きく異なります。
そこでマンションと一戸建て(窯業系サイディング+金属製屋根)の場合をみてみます。
マンションの場合
マンションの場合には毎月の住宅ローン+管理費や修繕積立費が強制的にかかります。修繕積立金を1ヶ月20,000円払った場合には、50年で1,200万円になりますが、修繕積立金の金額は後に上昇する可能性が十分にあります。
それに加えて、35年間あるいは50年間の居住中には、区分所有部分のリフォーム(内装や水回りの設備交換など)をされる方がほとんどだと思います。内装のリフォーム(建具交換、床張り替え、クロス張り替え)と水回り設備交換(洗面台、ユニットバス、トイレ、キッチン交換)などを住みながらリフォームした場合、500万円〜程度かかることが予想されます。
今後50年の間には、物価上昇によりさらに高くなることも想像されます。
一戸建ての場合
一戸建ての場合には強制的にはかかりませんが、自発的な修繕のための積み立てが必要です。
一般社団法人日本ツーバイフォー建築協会では「各部位のメンテナンスサイクル例」というのを発表しています。
青色で示されているのメンテナンス項目は「日曜大工」でも対応可能とされているので「大掛かりなメンテナンス」とされているオレンジ色で示されているメンテナンス項目に注目してみましょう。
「内装」のクッションフロアやクロスの張り替えは、洗面台やユニットバスのリフォーム時や床張り替え時に一緒に行うのが一般的です。審美的に気にならなければ、10年ほどでリフォームを考える必要もないかと思います。
「外まわり」のところにあげられている「屋根」「外壁」「外部塗装」の項目ですが、建物の寿命を延ばすためにもしっかりメンテナンスをしておいた方が良いです。
これらの項目は最短で8年で「塗り替え」となっています。
この数字について「本当にそんなに必要なのか」と感じられる方も多いかと思います。
そこで多くの方が選択される「窯業系サイディング」と「金属製屋根」の場合について、サイディングの大手メーカーさん「ニチハ」さんが発表している目安をみてみましょう。
建売住宅などで使われることもある「14mm厚モエンサイディング」の場合、10年程度で「塗り替え」となっています。一般的な「16mm厚以上」の「モエンエクセラード」でも15年程度で「塗り替え」となっています。
窓周りやサイディングの境目に使う「プラチナシール」は15年から20年の間で「打ち替え」となっています。
これらを考慮すると、15年〜20年程度で外壁塗装とシーリングの打ち替えを検討したほうがよさそうです。
これにはおおよそ100万円〜の費用がかかりますが、50年間には2回〜3回の工事が必要です。
次に「ニチハ」さんが公開している金属製屋根のメンテナンス目安をみてみましょう。
「屋外に現しとなる箇所」を除くとメンテナンスの周期は長くなりそうです。30年を超えると葺き替えを検討する時期になりますが、こちらはかなり大掛かりな工事になります。
他に内装のリフォームも必要になりますが、これはマンションの場合と同じです。しかしながら、一戸建ての場合、階段等の部分も含まれるため、壁や床の面積が大きい傾向にあります。リフォームをする場所、しない場所の取捨選択も必要になってくるかもしれません。
さいごに
家は安い買い物ではありません。
さらに土地や資材の高騰、社会環境の変化によって新築住宅の価格は年々高くなっています。そのうえ、購入後にはメンテナンスの費用もかかります。
いくら空き家が問題になっていたとしても、きちんと建てられ適切にメンテナンスをされた質の良い中古の一戸建てはかなり少ないのが現状です。
日本に住む人の平均寿命が長くなった時代だからこそ、より長く健康に過ごせる居住環境が必要です。またSDGsの観点からも、使い捨ての家が良いはずがありません。
日本にもっと質の良い住宅や施設を提供したい。そしてここからは長く住み継いでいけるような建物を提供したい。そうすれば「若い世代」がもっと家を持ちやすくなるかもしれない。
そういう未来がやってくることをアイ建設は願っています。
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