私の介護メモ #47
1週間ぶりに母の施設に顔を出すと、
母のいるフロアの介護士さんが気まずそうな顔をして声をかけてきた。
「お母様、ちょっと機嫌が悪くて」
どうやら今日は機嫌の悪い日に当たったらしい。
介護を始めてから、母の機嫌に振り回されることは度々あった。
突然大声を上げて怒り出す、怒鳴る、半身麻痺なのに地団駄を踏む、物を投げる。
この光景にぶち当たるといつも亡くなった父の言葉を思い出す。
「あいつ(母)酷いよな。お前をものさしで叩いていたもんな」
小学生の頃、母は竹のものさしを横に置いて、私の勉強を見ながら、事あるごとに叩いた。
叱ると言うより、怒る。
諭すとか一切なし。いきなり、ものさしでバシッと叩く。
感情で動く人だったから、機嫌が悪いとあの人の中では、親子とかそんな感覚は無くなる。
こうなると子供であろうと、夫であろうと、兄姉であろうと、言うことを聞かないし、
なだめることもできない。
母は車椅子で施設フロアの端っこの突き当たりの窓のところで一人でいた。
近寄って声をかけると間髪入れず。
「来んな!こんだっていい!2度と来るな!」
こんな罵声は慣れている。
「うん。分かった。またね」
そう言ってくるりと反転して戻った。
ああなると誰も止められない。
とりあえず、介護士さんに説明だけして、
帰ってきた。
介護って、難しい。
こと、プライドの高い人の認知症介護は、
いかにプライドを傷つけずに接するか、
ほんと、周りに認知症の人もいなかったし、
介護をしたことあっても、普通の介護とは全く違っていて、いちいち分からず手探りでやってる感じだ。
大半のことを特老の施設に入ってからは、
施設にお願いしてるから、精神的にも肉体的にも、ずいぶん負担が軽くはなったが、全くやらなくてもいいわけじゃない。
週1、顔を出して、様子を伺い、足りなくなった服や下着を買い足し、入れ替える。
先日は突然施設から電話が入って、
「腕時計を欲しがっているので持ってきてほしい」と言われ、慌てて時計を買って施設に持っていった。
介護が必要になって6年になる。そこから腕時計なんてしてないけど、時間をやたらきにする性格なので、時計を前に居たサービス付き高齢者住宅には持っていったけど、置き時計はすぐに壊すし、壁掛け時計は「そこにあるよ」と何度言っても覚えない。
腕時計の件は、思い当たる節があった。
母が普段から居場所にしているテーブルで、
同席している同じく認知症のおばあちゃま。
この方は腕時計にダイヤの指輪、何が入っているのか分からないけど、小さなバッグをいつも持ち、杖を使って歩くけど、
いつ挨拶しても、まるで私が居ないような扱い。
多分、このおばあちゃまには、私が存在しないんだなと、理解して、一応挨拶だけはしてるけど、いつきても無反応。隣に座っても、視界に私は入らないみたい。
このおばあちゃまが、母のプライドをくすぐるのだ。
母の話では、このおばあちゃまが年上だとか、何かにつけて、この方を気にしてるけど、ほかの誰もつけてない指輪、腕時計、
バッグが多分母には気になるのだろう。
何かにつけ、このおばあちゃまに時間を尋ねるみたいだけど、それがうまくコミュニケーション取れてない様子。
「時計はここ(食堂)にあるじゃない」と私が言っても、それじゃ分からないと言う母。
まあ、今回新しく買った安い腕時計を喜んで見につけてくれたので、
まあ、良いかなと。
昨日あれだけ機嫌が悪かったのに、
さすがに腕時計だけはちゃんと付けていた。
気に入ってくれたんだな。
また、1週間後、来よう。
次回は機嫌が良かったら、いいな。
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