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【短編小説】大切にしたいもの2

「ね〜、金ちゃんにえさあげて」

「金ちゃんね私のことが
わかるんだよ?」

「きんちゃーん新しい仲間だよ」


〇〇はその金魚に"金ちゃん"と
それはそれはありきたりな名前をつけ
可愛がり始めた

ザ・スタンダード金魚
俺の家に金魚がいるなんて...
なんだか笑えるな

夜中にリビングで1人酒を飲む夜は
気付けばその金ちゃんと
目と目で会話しながら飲んでいた


"なぁ金ちゃん
頼むから〇〇のご機嫌
とってくれよ?"

"ツーーーーーン"

一方通行な会話だけど
賑やかな〇〇の相手を
日頃任されている
俺と1匹の
わずかな連帯感は
なんとなく感じる


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そんな金ちゃんの
調子がおかしくなり
〇〇はいろんな方法を調べ試し
なんとか病気を突き止め
治る方法を探していた

"金魚、調子悪いじゃん"

なんてぶっきらぼうに言うと

"金魚じゃない!金ちゃん!"と
〇〇は全身の毛を逆立てた猫みたいに
睨みをきかせてくる


薬を入れたり
エサを変えたり
水を変えたり
外に出してみたり


そこまで俺にはしないくせに
と、思わず言いたくなるほどに
甲斐甲斐しく世話をし
見守っていた


だけど


非情なもので
最期の最期は
〇〇のいない日
俺と金ちゃんが2人(いや?1人と1匹)きりの日に訪れた


朝、金ちゃんの調子が悪いのを
心配そうに出て行った〇〇

様子がいつもと違う事を
急いで知らせなくちゃと思い
メールするけれど既読にならない

今日は忙しい日だと
言っていたっけ


水槽の表面で苦しそうに息をする
金ちゃん
思わず「頑張れ、金ちゃん」と
声をかけてしまう

お前を大好きな〇〇は今いないから
せめて帰ってくるまで
頑張ってくれよ


そう思うけれど
俺に出来ることはなにもない
「金ちゃん、頑張れ...」
不甲斐ない俺の応援虚しく
苦しそうな呼吸も次第に落ち着き
そして最後は
気付けば動かなくなっていた


水面にひっくり返り浮かぶ
小さな体
"少し、痩せたな"なんて思うのは
なんだか不思議な気分だ


結局夕方になり
メールを見た〇〇が
飛んで帰ってきた


帰ってくるなり目に涙を浮かべ
水槽の前に到着するなり
ボタボタと涙をこぼす〇〇


小さく
力なく浮かぶ水面に
悔しそうに歪めた顔から
涙の粒が何粒も降りしきった


(つづく)

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