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過去の日記より。

 ふーちゃんは、わたしが状況に流されるまま実家に戻り、保護した姉妹猫、ちーちゃんみーちゃんと切り離された状態から猫欠乏症に陥った挙句に辿り着いた救世主である。
 なので、彼女の要求は出来る限り叶えてきたし、出来なかったことは平身低頭、謝罪している。

 猫はすべてであり、凡ゆる事象を差し置いて、優先される案件である。譬え地球が崩壊寸前であっても、お猫様が耳の後ろが痒いと訴えれば、それを優先しなければならない。

 我が家のお猫様ふーちゃんは、ひと見知りが激しく猜疑心が強い為に、売れ残っていた。此方は猫欠乏症ではあったものの、金銭的にはもっと欠乏していたので、お猫様に常駐して頂く案件は繰越すしかない状況であった。
 しかしふーちゃんは自分以外のすべてを嫌悪し、ひとでいえば遊郭の女郎のような立場であるにも関わらず、購入希望の客に対する抱っこサービス(考えるだに悍ましいシステムだ)では暴れまくり、観念して抱っこされても屍体のような有様だったらしい。
 だからこそ売れ残り、出血大サービスの半額奉仕になっていた。そんなことは人間の、流通の都合でしかない。そのままでは未発達としか云い様がない状態だったというのに繁殖用に廻されたなら(八ヶ月なのに六ヶ月にも満たないほどの体格であった)、虚弱な彼女は体を壊してしまったであろう。
 体を壊した繁殖用の動物がどうなるか、よく考えなくても判る筈だ。映らなくなったテレビと同じ運命を辿る。つまり、廃棄処分だ。
 そんな訳で、ふーちゃんは性格の歪んだ可愛げのない猫である。しかし猫は、可愛げがあろうがなかろうが、基本的に自分勝手で媚を売らないのがデフォルトで、それを可愛いと受け入れるのが、猫至上主義嗜虐派の人間なのだ。
 呼んでも来ない。どちらにせよ、人間が勝手につけた名前など、認識する筈がない。そんな呼称で話し掛けられても、反応する訳がなかろう。
 あなたが宇宙人に拉致され、貴様の名前は「gi9a0y3ouoh58hphhxx;otfrgpだ」と一方的に押しつけられ、そもそもなんと云っているのか聞き取れない上に、意味が判らないものを記憶出来るだろうか。
 出来まい。

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 自分の存在する空間に見え隠れする、吾とは容子の違う、まあはっきり云って怖くてよく判らない動くものが、食事や水を与えてくれる。吾は何ひとつ悪いことをしていないのに、囚人同様の扱いを受けている。しかも部屋の裡に常駐している動物は、吾を見ると悍しいほどの笑みを浮かべ、ごしゃごしゃと吾の体を搔きまわす。
 妙に気持ちがいいので喉を鳴らしてしまうが、それに対して動くモノが笑うと、意味が判らないので怯えるしかない。喰われるかも知れないからだ。
 光る板を毛のない大きなモノは見ているけれども、音が立って煩わしい。吾が何をして慾しいかといえば、腹を満たすだけの食事をくれて、喧しい音を聞かせることなく、余計な手出しをせずにいてくれれば、半分くらいは満足出来ると云えよう。
 動くモノは行動する範囲に悉く存在しているが、積極的に動き廻ることは殆どしない。つまり、大抵の時間を寝転んで過ごしている。吾と同じだ。
 人間というよく判らない動くものに対して、吾は特に思うことはない。判っているのは、取るに足らぬ、捨て置いて構わぬ存在と認識しているということである。飯を供すれば充分であろうと、恐らく向こうも考えている筈だ。その程度の輩には、此方も尻尾を立てて「にゃー」と云えばいいものと認識している。

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 因みに耳が立っているのも購買慾を削いだ原因であろうが、彼女は一応、血統書附きのスコティッシュフォールドである。
 そこらを徘徊していた猫を保護し、溺愛していたわたしからすれば、人気種でありながらも愛想がない(上に、見た目が思うようではない)だけで粗末に扱われるペット業界は如何なものかと問いたいが、そんな気力もないので沈黙を決め込むしかない。
 しかも彼女は、獣医師からも耳だけを見てスコティッシュフォールドには思えないと断定されたのだ。つまり、耳が大きく立っている。それが何か生きる上で問題があるのかとは思うし、そもそも、その言い草はどうかと思う。それらしく見えなくても、価値がない訳ではなかろう。猫が猫であるだけで充分ではないか。
 否、動物を店で購うこと自体が間違っており、わたしが途轍もない罪悪を犯したのは慥かなのだ。すべての猫に対して謝罪する。今ここで云いたいことは、スコティッシュフォールドもマンチカンも、持て囃されているのは突然変異種を交配したものだけで、そうした個体は短命である。
 生き物を歪めて交配し、剰え商売にしようとは、天をも恐れぬ所業である。己れの子供が優良ではないからと排除されたらどう思うか、考えてみるがいい。反省するところが幾らでも、幾つでも、どれだけでも思い浮かぶ筈だ。

2019年10月1日 某ブログより。

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