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【創作大賞2024 恋愛小説部門応募作品】好きになったらダメなのですか?#30

30:『好きになったらダメなのですか?』

「好きだろ?」

「好きですよ!でも!」

和気藹々とした食事会、という名の両親の顔合わせに不満な私は課長に不満をぶつけながら二次会の会場へ送って貰っていた。
令嬢をどうやって諦めさせたのか聞いたが何も教えてくれず、ただ、お前は何も心配しなくていい、とだけしか言ってくれない。
どんなに食付いても教えてくれないのはムカついたが、あんな令嬢の言葉に簡単に騙されてしまった事の方が悔しくて、私は口を尖らせることしか出来なかった。

頻繁とはいかないが、スーツを作る時は生地のサンプルを持って外商が会社まで来ていた。
外商が来る=スーツを作る、と思い込んでいたから、スーツを作っていないと勘違いしていたのだ。
しかし、課長が体型の事を気にしている、とは。
年齢はどうにもならないが、体型や服装は自分の心がけ次第でどうにでもなるので、気にして食事制限をしていたのだと。
私と不釣り合いにならないように頑張ってくれていた事に嬉しくて、莫迦みたいに口元が歪んでしまう。

おじちゃんも支店長も3ケ月で帰って来るから辞めた事を黙っていてくれた、とか言われた。
本当にあの時、いつ帰って来るかと聞かなかったのだろう。
自分のアホさ加減に凹んでしまった。

多分、私達は上司と部下、という一線を越えたいのに越えきれなかった臆病者同士。
お互い、思っている事は口に出す事を約束した。

しかし、日本に帰って来てから直ぐに会いに来てくれたらよかったのに、と独りごちると土地の権利書と家の見取り図を渡され、目を丸くするしかなかった。
建売を購入しようと思っていたが気に入る物件が無かったので知り合いに格安で土地を売って貰い、ハウスメーカーを回って探していたら遅くなったのだと。
その契約書云々が出来上がったので皆を引き連れて顔合わせにきた、という事だった。

「それでも、私は直ぐにでも会いに来て欲しかったです…、って!だって、あの手紙の内容からして、諦めたって感じだったし、もう、完全に終わりだって思うじゃないですかっ」

ぷいっとそっぽ向けば、大きな手が私の頭をあの頃のように優しく撫でる。

「お前の場合、周囲から固めないと逃げるだろうな、と思ってな。両方の親が納得しているって分かったから受け入れる体制が取れただろう?もう逃がすつもりは無かったから最終手段に出た。…3ケ月だけ離れるだけだが、その間に言い寄って来る男は絶対にいるからな。手紙はよそ見をさせない為の小道具だ」

「…ムカつきます」

くつくつと笑っていた課長は急に、あ、と大きな声を出し、私はふくれっ面のまま彼の方に顔を向けた。

「夫婦になるんだから、その課長って止めろ。それと、4月からは支店長だ」

「え!?じゃ、じゃあ、支店長は?何処に移動するんですか?」

「奥さんの実家がある青森。というのも、青森の支店長が持病の治療に専念する為に退職される事になって空きが出来たから移動願いを出してな。俺も中国での3ケ月間、きっちり成果を出して来たから、ついでに昇進させて貰った」

口角をくっと上げる。
私はその異例のスピード出世に唖然とする。

「でも、移動をしないで良いように地域限定に変えたから、給料はスズメの涙程しか上がらなくなったけどな。ま、お前に捨てられた時は俺が出て行ってやるから心配すんな」

「ちょ!まだ籍も入れてないのに、なんでそんな話になるんですか!かちょ、…幸司さんの莫迦」

眉間に皺を寄せて睨みつけたのに、課長、もとい、幸司さんは

「お前、わざと煽ってんの?二次会に送らずにホテル行っていい?」

真顔で聞いて来る始末。
この人と結婚して大丈夫なのか。
私は不審者を見るような目で幸司さんを見る事しか出来ないでいた。

車を停めて、二次会のお店に向かうと2軒先がスターバックスだった。
幸司さんはスターバックスで仕事をして時間を潰して待ってくれるという。
2時間くらいで抜け出そう、と思いながら幸司さんに手を振り、店に向かいながらスマホのタイマーをセットしていると、前から高校の時のクラスメイトの男子に出くわした。

「井之頭!?」

「うわー、ひっさし振りだね。あ、アンタも二次会参加者?」

「そうそう。仕事で式に出れなかったから。…ってお前、何か、色っぽくなったな〜」

「あはは!流石に営業マン。お世辞が上手になって」

けらけら、と笑うと

「この前の、同窓会(という名の合コン)来なかっただろ?」

クラスメイトは男の顔をして、私を見ていた。

「お前に会う切っ掛けが欲しくって、同窓会しようってあいつに提案、いや、お願いしたんだ。俺、高校の時からずっと、お前の事がす、」

「嬉子?」

鈍感な私でも分かる告白タイムをぶった切るハスキーボイスに、これは見られていた、と冷や汗が伝う。
恐る恐る振り返れば案の定。

「こ、幸司さんっ、」

「同級生?」

「井之頭、誰?このおっさん」

告白タイムを壊されたクラスメイトは不機嫌を隠せない顔で私と幸司さんを見比べると、ほんの一瞬、幸司さんの瞳が細められて、色気ダダ漏れの笑みをクラスメイトに向ける。

『…やばい、これ、怒ってる。多分、“おっさん”の一言で…』

「嬉子、紹介してくれないか?」

「え!?あ、あの、」

本当に、何故こんなに絡むのか分からず、私の顔は引き攣らせた状態で幸司さんを見上げた。

「何だよ。お前、ガラに無く照れてんの?仕方ねーな…。初めまして、嬉子の婚約者の南です」

「あー、えーっと、結婚する事になりましたー」

ははは、と笑えばクラスメイトの顔が険しくなった。

「結婚って、ちょ、ちょっと年が離れすぎてるんじゃねーの?おっさん、自分の年齢考えろよ。あんた、俺等より一回り・・・は上だろ!井之頭も騙されてるんじゃねーの!?」

またまた、こいつも何て事を言ってくれるのか。
慌てて反論しようとした瞬間、後ろから幸司さんに抱きしめられて身動きが取れない。

「確かに嬉子とは10歳離れてますけど…。年が離れていたら、好きになったらダメなのですか?恋愛は自由ですし、他人様にとやかく言われる筋合いはありませんけど?っていうか、君のは負け犬の遠吠えにしか聞こえないよ?」

今の位置からでは幸司さんの顔が見えないので、どんな顔をしてるか分からないけれども、私達の周りにはブリザードが吹き荒れる。
一刻も早く店の中に入ってしまいたいのに、それすら許されない。
というか、幸司さんってヤキモチ妬きなのか、世間一般の男性もこんなものなのか。

2人が睨み合いを続けていると

「「「キャーーー!嬉子!誰!?その人!」」」

店からクラスメイト数名の女子がドアから飛び出して来て、私達はあっという間に彼女等に取り囲まれた上、そのまま幸司さんも一緒に店の中へ連れ込まれてしまったのだった。


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