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【創作大賞2024 恋愛小説部門応募作品】好きになったらダメなのですか?#31

31:最終話

「ねぇ?幸司さん…。会社に行かなきゃっていうか、行って」

「行くよ〜。でも、貴之たかゆきをもう少し眺めてからな〜」

にまにましながら我が子の頬を突く幸司さんの姿に、私は大きなため息を吐いた。

あれから結婚式に新居の完成に移動、と慌ただしい中、めでたく付き合う事となった愛子と誠一郎が2人揃って挨拶に来たり、妊娠発覚で慌ただしい日々を過ごす事となった。
新婚旅行でハネムーンベイビーを授かっていたのだが、1日でも早く子どもが欲しいとベッドに縫いつけられ、観光一つさせて貰えなかったのだ。
何処にも観光に行かずにヤりまくれば出来るわ!とあの時の事を思い出すと、怒りが込み上げてくる。
まあ、それでも出て来た五体満足な我が子を見れば、そんな事もどうでもよくなってしまうが。
しかし、鮎川君の処と同級生、というのにちょっと笑えてくる。
鮎川パパはお爺ちゃんで、幸司さんはお父さん、という処に。

それに、それに。
出産予定日も一週間も過ぎて何時産まれてもおかしくない、と言う日。
高校の友達夫婦・佐和田家がひと騒動起こしてくれ、私は佐和田の言動にブチ切れた。
だって佐和田が野乃華に酷いことを言って泣かせたのに、私に様子を見に行けと言ってきたので、会社まで乗り込んで思いっきり殴ってやった。
それでもグズグズ言う佐和田の尻を蹴とばすと、その拍子に降りてきて救急車で産婦人科に運ばれたのだ。
『佐和田を蹴り飛ばしたら赤ちゃん下がって来て陣痛始まった!今、救急車で運ばれてる!佐和田と野乃華のお陰だわ!』
なんて連絡入れたら、もう幸司さん驚き様ったら凄くって。
パニックになった所なんて滅多に見れないので、思い出すだけで笑ってしまう。


「んぁ…、ぁむぅ、」

お腹が空いてきたのか口をもぐもぐさせ始めたので、ベッドから立ち上がる。

我が子にメロメロで有り難い事なのだが、病室が会社の通りを挟んで前の為、仕事を持ち込んでする始末に、看護師さんも唖然とするしかない。

「幸司さん。明日は私も貴之も家に帰るんだから、会社行こうよ…」

「嬉子〜、ヤキモチ妬いてるのか〜?」

『…莫迦だ、この人…』

貴之におっぱいをあげる為、幸司さんを押し退け抱き上げる。
ベッドに座り服をたくし上げ、貴之の口におっぱいを含ませた。

「5年もしたら一端に生意気な口を利いて、10年したらひとり部屋が欲しい、とか言い出すんだろうな」

必死に乳首に舌を絡めて鼻で荒く息をしながら飲んでいる息子を見ながら、幸司さんは笑う。

「でもな、貴之。お母さんはお父さんのモノだからなー。おっぱいも貸してやってんだからなー」

と。
もう可笑しくて私は声を出して笑えば、おっぱいを飲みながらタイミング良く貴之も笑った。


思わず2人で見つめ合って、貴之に微笑みながら視線を落とす。


何気無い日常が輝いて見えて。


そんな些細な事が幸せに感じる。


あぁ、こうやって家族って出来て行くんだな、と神様の贈り物に私は心から感謝した。


            【終】


※感情を持って笑うようになるのはもっと先になりますが、タイミング良く笑ったのは「ひきつれ」によるものです。


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