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老抽とか生抽とか(中国の醤油の種類)

中国のレシピサイトやレシピ動画を見ていると「老抽」という文字が出てくることがあり、なんとなく「醤油のことね」と思っていた。

だが最近読んだ『料理の意味とその手立て』によると「醤油は料理で使うが、日本で一般的な醤油とは少し異なり、たまり醤油に近いもの」を料理に使っているとのことだった。

今まで普通にこれらをひっくるめて「醤油」と認識していたが、もしかするとこれをちゃんと「老抽(中国のたまり醤油)」で作ってみるとより美味しくなるものがあるのかもしれない。
過去なんとなく作ってきたレシピを見返してみよう。

拍黄瓜(きゅうりの和え物)

キュウリを叩いてニンニク・しょうゆ・酢などで和えるという料理。手軽ながらけっこう美味しく、中国夏料理の定番だという。

これは火を通さない料理だからか、「生抽」が使われている。他いくつかのレシピを見てもそうだった。なお、生抽は色は日本の醤油より薄いが、より塩気が強く濃口醬油に近い存在だという。

葱油拌麺(ネギ油の混ぜそば)

伝説的にうまいと言われるがまだその域までうまく作れたことがない料理である。市販のネギ油を買って調味料などと熱して混ぜてみたものの「ネギの香りのする油が麺に絡んだだけのもの」になってしまった。

ネギ油をやはり自分で作ったほうがいい可能性が高いが、それはさておき醤油観点で見るとどうなのだろう?と思い見てみると「生抽と老抽」の両方を使う、と書いてある。なるほどそう来たか。

老抽は色が濃く、塩分というよりはうまみを担う役割だという。あの混ぜ麺の艶やかな茶色はもしかすると老抽に由来する部分が多いのかもしれない。

麻婆豆腐

説明不要の麻婆豆腐である。前述の『料理の意味とその手立て』ではかなり茶色い麻婆豆腐ができており、「なぜこんな色になるのか?!」と疑問に思った。本の中では老抽を使って煮込むことで作られており、色の正体は老抽だった。

こちらの動画でも老抽を使用されている。豆腐を下茹でする段階で老抽を使うのはなかなか珍しいようにも思うが、なるほどそういうのもあるのか。

老抽とか生抽とか醤油とか

しかし、こうやってレシピ動画などを見ているとふつうに「醤油(中国語:酱油)」と書いてあるものもある。醤油という第三極があるのか??と思い調べてみた。

これらによると、まず大豆を発酵させた上澄みとして「醤油」というものができあがり、それらを抽出することで「抽」つまり生抽と老抽ができあがっているらしい。漢字圏だとこういうことがわかって鬼便利ですね。

なお、「醤油」それ自体ももともと「醤(ジャン、日本語ではひしお)」があって、それの上澄みということで「醤」の「油」、つまり「醤油」になるっぽい。漢字だとこういうパズル的な気づきがあって面白いですね。

なので「醤油」が最初にあって、それを半年ほど発酵させたものが「生抽」、生抽をさらに2~3か月おいて沈殿・濾過させたものが「老抽」となるとのこと。
現代では、老抽に関しては工業的な理由で生抽にカラメル色素や増粘剤を加えて作ったりするのが一般的らしい。

老抽と生抽の使い分け

概念的な位置づけとしては「生抽」と「老抽」は「醤油」の一種ではあるが、生抽はより塩辛く風味付けのために使われ、老抽はよりコクがあり色付けのために使われる。そして「醤油」はその中間的な存在という形。

生抽は冷菜の味付けやタレとして、または炒め物などに使うことが多く、老抽は煮物の色付けなどに使われることが多い。醤油は中間的な存在なので家庭料理においては代用してもいいよ、という感じらしい。

また、前述の葱油拌麺のように「生抽」と「老抽」を一緒に使うレシピに関しては「生抽:老抽=3:1」になるように使うとよいらしい。たしかに葱油拌麺も3:1の比率で使っていた。

日本で代用するなら「生抽」が濃口醬油、「老抽」がたまり醤油に近いのでそれで作ってみるのも面白そうかなと思う。

参考文献

今回はレシピというより醤油の歴史について書いたので読み物として面白いものを紹介。

https://www.kikkoman.co.jp/pdf/no27_j_014_023.pdf
キッコーマンが本気で書いている世界各国の醤油についての記事。たしかに醤油のことならキッコーマンに聞けばよかったのである。
記事の中で取材した中華料理のお店で「東坡肉の照りのある茶色を出しつつ味のバランスを整えるためには、たまり醤油(≒老抽)でないといけない」とあり、たしかに色を濃くしつつ塩分を抑えるにはうってつけである。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1988/86/7/86_7_506/_pdf/-char/ja
中国の醤油の工業的な製法についての記事。工業的な部分はあまり関心がないのだが、冒頭に歴史についての記載がありなるほどと思わされる。


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