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都市モビリティの未来

SFの世界で夢見ていた、自動運転車や配達用ドローンのような交通手段は、もうすぐそこに。

本記事は6月17日にMediumで公開した記事の転載です。

はじめに:

都市モビリティは、最も刺激的かつ革新的なテクノロジー分野の一つです。都市モビリティの進化は、すなわち、官民の連携強化、ソフトウェアとハードウェアの統合、あらゆるものの接続など、技術革新を活用して社会を前進させます。
Agya Venturesでは、モビリティ領域における最新のトレンドや技術を常にモニタリングしています。この分野における、主要なイノベーションを6つのカテゴリーに分類しました。
各カテゴリーには、サブカテゴリーがいくつか含まれており、以下の図のように展開されています。

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1.) シェアードモビリティ

シェアードモビリティの出現により、都市内での移動方法は大きく変わり、短期的に大きな影響を与え続けると見られます。例として、コロナウイルスの拡散リスクを軽減するための公共交通機関の占有率制限により、シェアードモビリティの需要が高まります。この分野の主なテーマとして、マイクロモビリティ(超小型の交通手段)、ライドシェアリング、カーシッピング(車両輸送)、駐車スペースの活用が挙げられます。

a.) マイクロモビリティ: 近場のマイクロモビリティ(e-スクーターやe-バイクなどの超小型な交通手段)をスマートフォンのアプリからレンタルすることで近距離の移動に使用できます。この分野はシェアードモビリティ分野においても最前線にあり、既存企業(Uber、Lyftなど)とベンチャー企業(Bird、Limeなど)の両方がリードしています。3月には、グルーバルにほぼすべての主要都市で、コロナウイルスによる影響で公共交通機関の利用者数が減少しており、弊社では、屋外でのマイクロモビリティ・ソリューションへの恒久的なシフトが起こると予想しています。実際、Bird社は5月下旬に、移動時間が50%以上増加したと発表しており、人々がバスや電車等の公共交通機関から、スクーター等のマイクロモビリティに置き換えていると示しています。

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Image courtesy of CNN

b.) ライドシェアとカーシェアリング: シェアモビリティが登場してから久しいですが、UberやLyftのような既存の企業が継続して主導しています。特に、ライドシェアは、個人が自動車を所有することからのシフトに火をつけました。業界はパンデミックの影響で大きな打撃を受けていますが、今後もこれらのサービスが重要な役割を果たすことが予想されます。
c.) 駐車場: シェアモビリティの普及、将来的な自動運転車の台頭は、個人の自動車所有に興味深い意味合いを持っています。イーロン・マスクのように、車両コストの低下と安全性の向上により、自動車所有者が増加すると考えている人もいます。一方で、シェアモビリティの大量導入により、個人所有の自動車が大幅に減ると考える人もいます。個人所有者が減少した場合、都心部における何千台もの駐車場は、はるかに少ない需要に直面することになります。すなわち、住民やビジネス用に予約されていた多くの駐車場が空き地になったり、十分に利用されなくなる可能性があります。

2.) 電動化

電気自動車(EV)やハイブリッドEVは年々シェアを伸ばしています。EV業界はコロナウイルスの大流行で大きな打撃を受けていますが、この短中期的な障害を乗り越えて、電動化のトレンドは続くと予想しています。EVの生産は、テスラやBAICのような大手企業が大部分を占めており、ホンダやゼネラルモーターズのような既存企業が追随しています。ベンチャー企業も重要な役割を果たしており、EVが一般に普及するために必要な技術開発をしています。電動モビリティへの移行に不可欠と考えられると弊社が特定した3つの課題、(1)充電インフラ (2)バッテリー容量 (3)公共交通機関 をご紹介をします。

a.)充電インフラ: 長期的には、充電インフラは、現在のガソリンスタンドに匹敵する役割を果たす規模への拡充が期待されています。これを可能とする基礎技術はすでに実装・稼働しており、多くの企業が手頃な価格のEVを発売することによって、今後数年で充電インフラが急速に拡大すると予想されます。
b.)バッテリー容量: 以前からユーザーがEVの課題として指摘しているのは、バッテリー容量の制限により、ガソリン自動車等よりも走行時間が短いことでした。これに対応するために、EV業界ではバッテリーの容量を増やすことが強く求められています。1991年以来、リチウムイオン電池が標準となっていますが、電動化の波を後押しするように、新しいタイプの電池が登場する可能性が高くなっています。
c.) 公共交通機関: 各国の環境規制は電動化の大きな推進力となっています。例として都市バスは世界の温暖化ガス排出量に大きな影響を与えており、各国の都市・政府はオール電化の公共インフラへの切り替え計画を発表しています。中国はその先頭に立っており、現在は電気バスに補助金を出し、2018年末時点で世界の電気バスの99%を中国が占めています。公共交通機関の変化には時間がかかりますが、自治体がバスを電動化することで、大きな市場機会になると考えています。

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Image courtesy of TechCrunch

3.) 自動化

都市モビリティにおける最も重要な変化は、運転と配達の自動化です。この分野では、GoogleのWaymo、GMのCruise、Teslaなど大手会社が主導しており、いずれも何年も前から路上テストを行っています。しかし、自動運転車が一般に普及して個人向けでの購入ができるようになるまでには、より多くのテストと政策的な裏付けが必要となるため、長期的視点で見る必要があります。実現すれば、車とは何かという定義が大きく変わり、乗車のエクスペリエンスから配達まで幅広く大きな変化がもたらされます。ここでは自動化において重要な4つの側面(1)イネーブリング技術 (2)自動配送 (3)自動空輸ドローン (4)拡張技術 を説明しています。

a.) イネーブリング技術の開発: イネーブリング技術とは、自動運転車が道路を安全に走行するためのすべての技術(センサー、レーダー、地図など)を網羅した用語です。
この技術は、一般に考えられているよりも実用化に近い状況にあります。Teslaは何年にも渡って既に自社車両に自動運転のもととなる機能(Autopilot)を搭載してきています。Waymoは、2009年に初めて自動運転車のテストを開始し、2017年にはフェニックスで自動運転タクシーサービスを開始しました。自動運転車を現実に運用する技術はもうすぐそこまで出来ており、ラストワンマイルの実現に向けて、多くの有望なベンチャー企業が開発に取り組んでいます。
b.) 自動配送サービスの台頭: コロナウイルスのパンデミックの中、小売業の中で唯一成長を見せているのがEコマースです。米国では、第1四半期の売上高は前年同期比14.5%増となっています。現在、これらの商品の配送は複雑でコストがかかりますが、一部の大手企業はこれに対応すべく革新的な物流ソリューションを推進しています。時間はかかりますが、長期的には配送プロセスは自動化され、より早く、より低コストで顧客に荷物を届けることが可能になると考えられます。

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Image courtesy of VentureBeat

c.) 自動空輸車両・ドローン (AAV): 配達や旅客用のドローンは、SF映画のように思えるかも分かりませんが、すでに様々な機能が実装に向けてテストされています。この技術が一般に普及し使用されるまでには5年以上かかると見られていますが、現時点でも既に重要な開発が進んでいます。
d.) 拡張技術: モビリティ市場で早くも普及する可能性のあるアプリケーションの一つとして、車のフロントガラスを周辺環境や速度を表示するスクリーンに変える拡張現実(AR)ヘッドアップ・ディスプレイ(HUD)テクノロジーがあります。

4.) 自動車の接続性

インテリジェント・コネクティビティは、次世代の自動車の普及・活用に大きく影響します。V2X(Vehicle-to-Everything)技術により、自動車は周囲の交通、インフラ、歩行者との情報のやりとりを行い、都市システムの一部を担います。

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Image courtesy of Forbes

a.) Vehicle-to-Everything Tech (V2X): V2X技術とは、車両と周囲の環境を接続する技術の総称であり、自動運転の安全性を高めることを主な目的としています。V2X技術は現時点ではまだ黎明期ですが、市場の可能性は非常に大きく、この技術を搭載した車両が増えることでネットワークによる恩恵を大きく受けることになります。既にいくつかの大手自動車メーカーが、限定的にV2X通信を可能とする2つの技術のうちの1つ(C-V2XまたはDSRC)を新車に搭載する予定を公表しています。Fordは2022年から米国で生産されるすべての車両にC-V2Xを搭載すると発表しており、Volkswagon Golfは2019年からすべての新車にDSRCを追加しています。
b.) 自動車のサイバーセキュリティ: 自動車への新たな機能の実装によって、ソフトウェアの重要性が増していますが、同時に、外部への接続性が高まることでハッキングされるリスクも高まっています。今後は自動車のサイバーセキュリティが、消費者と政府の信頼を構築する上で重要な役割を果たすことになります。

5.) モビリティ・マネジメントサービス

モビリティはテクノロジーへの依存度を大幅に高めることから、今後は生成される膨大な量のデータを追跡するために管理プラットフォームが必要になります。これらのプラットフォームから恩恵を受けるグループとして下記の4つが挙げられます:
(1)都市(2)旅行者(3)フリート(保有車両)(4)決済

a.) 都市: モビリティの状況は急速に変化しており、それぞれの都市環境に応じた最適な交通手段を明確化することにより、官民間の認識のギャップを埋めることが出来るプラットフォームが登場しています。
b.) 旅行者: 旅行者が効率的に都市を回れるようナビゲートするために、新しいモビリティタイプへの接続が容易なソフトウェアが必要になると考えます。
c.) フリート(車両): モビリティをスマート管理することで、企業は自社のフリートの管理方法についても再考することになります。
d.) 決済: 駐車場、ライドシェア、マイクロモビリティなどのモビリティ費用をすべて一か所で支払えるようにするプラットフォームは、短期的な導入が可能であり、世界中から注目を集めています。長期的には、旅行者が1日に何度も小額の支払いをするのではなく、最終的に総額をまとめて支払えるようになるまで、モビリティー・ペイメントが統合されていく可能性があります。

6.) スマートモビリティインフラ

都市モビリティの新時代に突入した今、都市インフラは、テクノロジーを重視した交通ソリューションへ対応するように変化しています。
(スマートインフラは、都市インフラ接続についての多くの側面を包含する用語で、弊社のスマートシティレポートで詳しく取り上げています。)
スマートインフラで都市モビリティに関連する特に重要な分野として、下記の4つが挙げられます:
(1)スマートパーキング (2)ダイナミック縁石 (3)ボーリングトンネル (4)ハイパーループ

a.) スマートパーキング: 今後駐車場にはセンサーが完備され、ドライバーは即座に空いている駐車スペースを見つけることができるようになり、駐車場オーナーはリアルタイムの需要に基づいたダイナミック・プライシングが可能になります。
b.) ダイナミック縁石(路肩の活用): 街路の縁石は未開発の可能性を秘めた都市空間です。都市は縁石を、多くのモビリティの問題を解決する柔軟で生産的なスペースへと変化させながら、管理と収益化を支援するようなツールを多く必要としています。現在の需要に応じたダイナミックプライシングが活用されながら、同じ縁石が朝には配達所、ラッシュアワー時にはマイクロモビリティのピックアップステーション、夜にはライドシェアサービスのピックアップ場所として機能することを想定しています。
c.) ボーリングトンネル: 当レポート中で紹介した技術の中で特に長期的だと思われるのは、ボーリングトンネルとハイパーループです。Elon Muskによって普及したボーリングトンネルのコンセプトは、すべての都市交通を地下へと移動させるためのトンネル建設も含んでいます。自動車や歩行者は、エレベーターシャフトとして機能する地上駐車場から地下トンネルへとアクセスすることが可能です。

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Image courtesy of Electrek

d.) ハイパーループ: ハイパーループとは、低気圧のチューブで密閉されたトンネルシステムで、トンネルを用いることで高速鉄道の2~3倍の速度で移動できます。モデルタイプでは地上でハイパーループ用チューブが使われていますが、Elon Muskは、地下トンネルでもハイパーループ・テクノロジーを組み込む可能性も提示しています。

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Image courtesy of geekwire

以下の図は、主要6カテゴリーをさらにサブカテゴリーに分類して、調査結果をまとめたものとなります。

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*タイムライン、イノベーションの度合い、市場規模はすべてAgya Venturesの現時点における推定値であり、イノベーションが起きている状況の概観を感じていただくためのものです。弊社では、状況の変化を常にモニタリングし、新たな考察を加えてり、これらの数値は今後変わりうるものです。

まとめ:

本レポートでは、テクノロジーが都市モビリティの未来に与える影響を説明しました。記載したカテゴリーでご紹介したのは、世界でまだ普及していない最新のテクノロジーですが、最終的にはすべての都市の人々が生活中でこの技術に触れることができるようになるでしょう。現在、都市モビリティの中で起こっているイノベーションには大きな可能性があり、その道をリードする企業は、今後世界で注目され、価値のある企業となる可能性が高いと考えています。

Agya Venturesでは、パートナーの皆様に、不動産技術に関する高度な見識、ベンチャー企業へのネットワーク、リサーチを提供しております。6つの分野すべてのテクノロジーソリューションの詳細を含む、当レポートの完全版については、井口信人(nobu@agyaventures.com)、KunalLunawat (kunal@agyaventures.com)、Aaron Farr (aaron@agyaventures.com) までお問い合わせください。

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