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”業務ツール”のUXライティング力を伸ばす本・5選

「わかりやすさ」を生み出すための、認識とスキルを育てる視点で選んだ5冊

UXライティングの参考書は、その人が日々向き合っている”ユーザー”との関係性によって大きく変わってきます。

ここでは、SmartHRのような業務をサポートするデジタルプロダクトを開発していて、そのユーザーを助けるライティングをする上で必要なことをインストールするという視点で選んでいます。

業務ツールが提供するユーザー価値は、「時間がかからないこと」。業務を効率化したいから、ユーザーは対価を払ってサービスを利用しています。そして、ムダな時間をなくすためには、わかりやすく、正確であることが欠かせません。

つまり、ここでのUXは「なるべく短時間で理解できること。そして、誤解を生まないこと」です。

文字にすると、当たり前すぎて「付加価値はないの?」という感想も生まれてくるかもしれませんが、真っ当なことは意外と難しい。人間は一様ではないし、また間違えることが多いからです。

また、「そんなの当たり前だよ」と誰しもが経験値や実感として持っていても、理由や対策が言語化できているかいないかで、大きくアウトプットの質は変わってきます。ここでは、そのための本を紹介します。

「わかる仕組み」を理解する本

認知領域を専門とする心理学者が書いた1988年刊の著書『こうすればわかりやすい表現』新装版。認知心理学の認知モデルをベースに「わかる」のメカニズムを解く本なので、その内容は今でも十分通用します。
「UXデザイン」とタイトルに入っている本だとその仕組みを端折られがちな、認知モデルを把握する最初の1冊としてちょうど良い。

わかるとは、入力情報が、人間の情報処理系の中で適切に処理されて、頭の中に格納されている既有の知識に同化させることができたか、あるいは既有の知識をうまく調節できることである

上記のような認知モデルのベーシックな解説と合わせて、UXという視点では「メンタルモデル」についても丁寧に言及があります。メンタルモデルもなんとなく理解したつもりになりがちな概念ですが、そこもスッキリ理解できます。

「コミュニケーションする上では、相手の立場になりましょう」ということは、「相手になにかしてもらったら、ありがとうと言いましょう」並みに常識とされているけれど、その意識が必要な理由について、改めて腹落ちできます。

メンタルモデルの身勝手さを認識していることで、相手にもメンタルモデルがあるし、自分が伝えるときにもメンタルモデルがあってお互い様だという気持ちになれます。(ここまでくると、かなりメタった話になるけど)

また、UXデザイン系の本は、どうしても輸入コンテンツ(=翻訳もの)が多く、非言語の設計だったら参考になるものの、言語の領域になると、日本人には当てはまらなかったり、物足りない部分が惜しいんですよね… その点もクリアしています。

ちょっと残念なのは、認知モデルには熟知している先生が非常にわかりやすい文章を書けるかというと、決してそうではないことです。

情報の整理整頓の手法を知る本

米国のインフォメーション・アーキテクトが書いた『How to Make Sense of Any Mess』が原書の邦訳。原書のタイトルの方が、この本の本質をうまく表していて好きです。

Messとは、乱雑な寄せ集めの状態のこと。ここでは、情報が未整理ゆえに、混乱が生まれているといった感じでしょうか。

そしてMake Senseとは、バチッとハマる日本語訳がないのですが、"to be clear and easy to understand" 、意味を成す状態を作るという意味。情報設計の世界ではよく使われる言葉だそうです。(アメリカ人が何かしら口にしているなぁという印象はあったけど、IAの世界で使われているのは知りませんでした)

情報を混乱させる原因はそう多くはありません。
A.情報過多
B.情報不足
C.適切でない情報
D.上記の組み合わせ!

この本は上記のように情報を真ん中に据えて、「わかりにくい」が発生する原因を説いた上で、情報をどうやって扱うと価値が生み出せるかを説明します。

情報設計のアウトプットのベストプラクティスを紹介するというよりも、課題解決をする際の情報整理の方法を解説したパートが多い印象ですが、情報整理を、自分やチームのために行うか、ユーザーのために行うかだけの違いです。

また、この本でもメンタルモデルへの言及があります。ここで初めてメンタルモデルの説明を読むよりも、「心理学者が教える 読ませる技術 聞かせる技術 心を動かす、わかりやすい表現のコツ」を先に読んでおく方がわかりやすく、最初の本で消化不良気味だった、アプローチ方法が手に入ります。

私は、この本かなり好きなんですが、一番好きなのは、ココ。

意図とは、私たちが何かあるものに持たせたい効果のことを指します。私たちは、意図について語るときはいつも、言葉によって決断を行なっています。

情報設計をする上でのモノサシとしての言葉の大切さを書いてて好きです。

コンテキストを多く含む分野で、一般的にわかりやすい指示文の成り立ちを知る本

文章術の本の守備範囲の広さは、新聞学科、出版社、広告会社というキャリアもあって、かなり自信があります。その中で、あえてこの本を選んだかというと、数学というコンテキスト、世界観、独特のルールがあるジャンルにおいての、わかりやすい文章表現を説いているからです。

そして、これまで文章本を読んでもわかりやすい文章を書けずに悩んできた人には、一度数式を無視してでも、ぜひ読んで欲しい。見出しや本文内の箇条書きなど、構成がしっかりしているので、多少読み飛ばしても理解できます。

書いたのは、「数学ガール」の著者である結城浩さん。数学者ではなく、プログラマです。

この本は、「《読者のことを考える》というたった一つの原則を具体化したもの」と結城さんは「はじめに」で明言しています。この本を読む前までに、先に紹介した2冊を通して認知モデルについて理解をしていると、この本の章立ての気持ち良さが理解できます。

章立てのわかりやすさと合わせて、私がこの本をピックアップしたもう1つの理由が、下記の言及です。

一般的な語句と同じ言葉遣いの専門用語には十分注意が必要です。専門用語には、国語辞典に書かれているような一般的な意味ではなく、その分野に限定された特殊な意味が与えられているからです。著者はもちろんそのことを知っていますが、読者がそのことを意識しているとは限りません。想定する読者に合わせて、「この語句は一般的な意味ではなく、専門用語特有の限定された意味があるのだ」ということを伝える必要があります。

一般的な単語でも、場合によってはある特有のコンテキストをまとった表現になる場合があります。書き手はそのことを自覚し、それが伝わる書き方をしなければなりません。その配慮を書くと、読み手にとって引っかかりのある文章になります。

プロダクトやサービスには、プロダクトそのものやドメインがコンテキストを多く含み、同じ言葉遣いだけれど専門用語であるケースが多くあります。この視点が書かれているというだけでも、この本を読むのに値すると感じます。

また、そもそも数学の問題文は指示文なので、プロダクト文言やサポートコンテンツとして書かれるテキストとも親和性が高いです。ライティングガイドラインの参考にするのに、とても使い勝手が良いです。

ストーリーにワクワクしながら「わかる」について考える本

最後は、これまでに得た知識を、ストーリーを楽しみつつ、感想として反映させながら自分の思考に定着させるのにオススメのおまけです。

言語学者である川添愛さんの著書。学者さんの著書ですが、お話です。人工知能の「わかる」とは、一体どういうことなのかを描いています。

主人公が、自動人形(オートマトン)しかいないお城で困難に立ち向かう成長ストーリーなのですが、言葉の「意味」と「意図」の理解には大きな違いがあることに気づかされます。「機械の方が正確に言葉を把握できるのに、なんで人間の方が融通が効くんだろう…」「人間のほうがバグがあるのに…」とかいろんなことを考えさせられます。

なお、AIのタイプなど、技術の概要を知るにはこの本の半年前に刊行された同じ著者の『働きたくないイタチと言葉がわかるロボット 人工知能から考える「人と言葉」』がとてもわかりやすくてオススメです。

コンテキストを考えることはUXの基本

最後に。今回紹介した本は紹介順に読むことで、UXライティングに取り組めるコンテキストを紡げるように選びました。

冒頭で「向き合っている”ユーザー”との関係性によって、参考にすべき本は変わる」と前提を踏まえましたが、UXを考慮したアウトプットとは、狭義のコンテキスト(文章の前後関係)ではなく、広義のコンテキスト、つまり背景や環境、状況から望ましい未来、効果をもたらす道筋だと私は考えています。そして、そのプロセスを試行錯誤することが、今はとにかく楽しい!これからも、いろんな方の知見と自分の在野での経験を通して、認識とスキルを高めていきたいなと思います。

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出版業界からデジタルマーケティング業界を経て、SaaS企業でライティングスキルを活かして働いています。 雑誌編集者として過ごした時間が占める割合は減る一方だけど、カスタマーエクスペリエンスを意識したアウトプットの基盤になっているのは、編集者としてのスキルです。

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