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収穫適期の「正解」とは? 模範解答を知り、その先へ

農業を始めたばかりのころ、何が「正解」なのか分からないまま、もがいていた。土づくり、品種選び、病害虫への対処方法、作物ごとの栽培・収穫適期…。当然ながら、良い作物ができるはずもない。農業大学校の社会人向け講座(野菜コース)に2年、市農業指導センター(柑橘コース)に1年通った。3年間で「模範解答」の知識を得て、やっと、スタートラインに立つことができた。


収穫適期、逃せば苦労が水の泡に

中でも頭を痛めていたのが収穫適期の見極め。うまく栽培できたとしても、最終段階で間違ってしまえば、それまでの苦労が水の泡に。産直市でベテラン生産者の出荷物を観察し、時には質問もしていた。

キュウリ、長なす、ピーマン、甘長とうがらし、オクラなど、大きさで判断できる野菜はわかりやすかった。出荷規格表通り、大きさで判断すれば、まず、外れはない。トマトも色づきで判断できる。カボチャも付け根部分がコルク状になれば収穫時期と教わった。外観で判断できる野菜は、やりやすい。キャベツや白菜も、頭の部分を手で押さえたときの締まり具合で、わかるようになってきた。

難題 そら豆、スイートコーン、スイカ

難題だったのは、そら豆、スイートコーン、スイカなど、外見だけでは判断がつきにくい野菜。すべて外皮をむいて、食べてみる訳にもいかない。早ければ未成熟、遅ければ品質が劣化してしまう。加えて、どれも収穫適期が短い。

右の莢のように、太く実が詰まってくると収穫適期

そら豆の収穫時期は、「上を向いていた莢が横向きから下向きになってくる頃」「莢全体の色が濃くなり、光沢が出る」「莢に黒い筋が入っているのが目で見て確認できたら」などとされている。頭では分かったような気がしていても、実地では「どれが収穫適期?」と迷う。全部あてはまらないといけないのか、どれか一つでも当てはまればよいのか。栽培初年度、「もう大きくなっているから」と収穫、販売し、大部分が売れ残った苦い経験がある。

栽培4年目。経験も積んだ。莢の向きや光沢、黒い筋などの外観を総合的に見ながら、最終的には、莢の上から実の張り具合を触って確かめる。この方法が一番間違いない。外皮を押し出すように、実が張っていれば、収穫できる。

「積算温度」データ活用

スイートコーンは品種によって種子袋に「80日」「88日」「90日」などの表示がある。播種から収穫までの標準日数を表している。ただ、これを鵜吞みにしてしまうと失敗する。植え付ける時期、栽培期間中の気温によって収穫までの日数は大きく変化する。3月中旬に播種した時は、収穫まで100日近くかかり、6月初めに播種したものは60日余りで収穫時期を迎えた。

収穫まであと少し。スイートコーン

収穫時期を見定める指標にしているのが、日平均気温を積算した「単純積算温度」。「雌穂のヒゲが出てから積算温度450℃~500℃」「播種から1700℃~1800℃」とされている。この温度の幅は、種子袋に表示された日数によって異なってくる。単純積算温度とは別に、植物の成長に対してトウモロコシに有効な10℃~30℃の気温を使用する「有効積算温度」という指標もあるが、愛媛では栽培期間中に日平均気温が範囲外になることはほぼないため、単純積算温度を指標にしている。

便利サイト 収穫予定日の予測も

ウェブサイト「パイオニア トウモロコシ用積算温度計算プログラム」を活用している。地図で栽培場所をマークし、期間を設定すると、単純積算温度が算出される。今日以降の気温は、昨年データで予測してくれるため、収穫予定日のめどが立つ。

最終判断は手の感触、食べてみる!

ただし、データはあくまで参考。収穫時期が迫ると、最終的には実の張り具合を手で確かめ、収穫開始日を決定する。

外観だけでは収穫時期が分かりにくいスイカ(小玉)

スイカもまた「積算温度」を活用している。開花後、人工授粉し、果実に印を付け、受粉日を記録する。受粉から収穫までの積算温度が、小玉スイカなら800~900℃、大玉なら1000℃~1100℃。それが収穫の基準となる。収穫予定日ごろになると、受粉日が同じスイカを一つ収穫し、食べてみる。糖度計で糖度も図る。糖度10度~11度なら収穫可能。糖度12度以上あれば、なおよい。

積算温度や糖度などの「数値」を指標とすれば、「正解」の時期が見えてくる。ただし、最終的には、色、艶、手で触った感覚など、経験に基づく判断が必要になる。経験値は、どのような状態のものが、どのような味なのかを「自分で食べる」「家族に感想を聞く」ことで蓄積されていくのだ。

「模範解答」のその先には…

最近、この「模範解答」を理解したその先に、別の新たな「正解」もあるのではないかと思えてきた。

例えば、そら豆。調理方法によって、最適な収穫時期は異なると感じる。戦前生まれの母親の世代は「煮物」としてそら豆を調理することが多い。それには、豆が完熟し、「おはぐろ」部分が黒くなったものが良い。

近年は、塩ゆでや、バーベキューやグリルで莢ごと焼いて食べることが多くなった。「おはぐろ」が緑色の時期に収穫すれば、薄皮も柔らかく、そのまま食べられる。調理方法や時代によって好まれる収穫時期は微妙に異なってくるのだろう。

バーベキューで焼きそら豆。外皮が焦げても大丈夫。中の豆は蒸し焼き状態に。

それは、収穫時期に限らないように思える。栽培方法や施肥、品種など、農業を取り巻く技術は日々、変化し続けている。調理方法や好みも変化する。基本的な「模範解答」を理解した上で、その先にある応用問題を解き、正解を探し出すこともできるのではないか。農業って、やっぱり面白いな、と思う。

(あぐりげんき)


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