見出し画像

木暮荘物語 三浦しをん

古びた木造アパート木暮荘の住人とその周辺の人々の人生、いや人性の物語。

身勝手に消えた元彼が戻ってきて今彼と仲良くなってしまい奇妙な三角関係に悩む女の子、死ぬまでにどうしてもセックスをしたいという思いに取り憑かれている老人、階下に住む女子大生の生活を穴から覗く事に夢中になる無職の男、覗かれているのを承知で暮らす女子大生、誰にも見えない謎のキノコが見えてしまうトリマーとヤクザ…など、どこか『普通』じゃない人達が少しずつ繋がりながら進んでいく。

一見『普通』ではない彼らでありながら、多分どこにでもいる彼らなのだろうなとも思う。人生も人性も人の数だけあって当然なのに、わたしたちはひとつの型に収まろうとし、収まらない事を『普通』ではないとジャッジする。型にはまれない自分はおかしいのでは無いかと不安になり、表面だけを整えて生きている人がどれほど多いことか。

中学時代に不妊症と診断され生理がこない女子大生が1ヶ月に一度生理が来たふりをして生活をしていたり、セックスしたい気持ちが恥ずかしく誰にも相談できない老人がいたり、旦那の浮気に気付きながらも知らないふりをして生活している妻がいたり、型からはみ出した人たちが不器用ながらも前に進んでいく様子を見ていると、人生とは型に入ろうともがくことなのではないかと思えてくる。それこそが『普通』なのではないかと。

本当は存在しない型になんてはまれる訳ないのに、人間とは滑稽だ。自分も含め哀れな人間たちが愛おしく思える物語でした。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?