京都”出町座“にて『偶然と想像』を観た
出町柳の桝形商店街内にある映画館で”濱口竜介監督特集上映”の『偶然と想像』を鑑賞した記録
映画を観るとき監督やスタッフなどの情報は全くと言って良いほど関心を持たないで観る
カンヌ映画祭をはじめ様々な国際映画祭の話題も知らないわけではないけれど、『へぇ、そーなんですか、すごいっすね!』という程度
ありがたい3連休の始まる前のハナキンの夜、夜遊びしたい!ちょっと出掛けたい!そんな気分になったので映画を観ることにする
どこかで手に入れたあの人の名前がたくさん載っているフライヤーを大事に仕舞っておいたのを思い出し取り出して眺める
渋川清彦という俳優さんの名前だ
顔がすごくタイプとかそんな感じではないけれど、ちょっと何かを含ませたような笑い顔とか、あの佇まい─全体的な力の抜けた男臭い雰囲気─がたまらん
『不気味なものの肌に触れる』という作品は、渋川清彦に、染谷将太、村上淳の名前もあり観たかったが都合が合わず断念した
調べてみると再び渋川清彦チャンスが巡ってきた
ちょうど金曜日の夜に21時前開演23時前終了の上映があるではないか
夜遊びな気分にはうってつけの時間だ
古川琴音に、中島歩、玄理も出演者に名前があるので、これに決定
電話で予約という素敵なシステムがあるので、どの程度の入りかわからないから早速電話する
ラッキーな事に“ファーストデー”だそうでいつもよりお安く観られるそう
こういった映画館ではそういうのは無いと思い込んでいたのでちょっと嬉しい
あ、でも『ルックバック』は通常料金でしたよ
普段から夜更しの生活だけど、23時に終わる映画を平日に観るのは、つまらない事を言うが『次の日に差し障りそう』なので積極的になれない
予約と言っても当日足を運び券売機でチケットを購入し受付に予約した旨を告げるというシステムらしい
残席の把握のための予約ということね
実に面白いシステムだけれど、映画の開演時間が21時前と、時間が遅くなるほど雨も強くなりそうなので、なるべく早めにこの界隈に着いて座席指定をしてからご飯を食べたり、余裕を持って行動したい
映画の内容は一切調べないのに(フライヤーに書いてある内容を読んだのみ)、周辺の飲食店を検索する
“濱口竜介作品”を見るにあたってこんな不届き者ではあったが、率直な感想はとても面白くてすごく好きな雰囲気の作品だった
目を引く派手さのある演技や高ぶる感情を込めた台詞からではなく、どちらかといえば抑揚の少ない会話や控えめな動作でありながら、ズルかったり弱かったりするどうしようもないような人間臭さとか、エロさ、エモさを見せつけられたような感じがした
短編作品3作品からなる『偶然と想像』
『魔法(よりもっと不確か』
『扉は開けたままで』
『もう一度』
の3作品
濱口竜介監督の作品の特徴や評価を存じ上げないので的外れならばごめんて感じだが読書記録や、食べ物・お料理と同じく”私“の『記録』なので映画鑑賞記録もあくまで『記録』と率直な『感想』なので憶せず書く
3作品とも、ほぼ一対一の人間がやり取りする会話から繰り広げられるありふれた日常のワンシーンのような気もするし、あとにも先にもこんな体験をすることはないような気もする、そんな場面が淡々と進んでいく
『あっ』とか『ええっ』とか驚いたり、時には声を出して笑いそうになったり(実際大きな声で笑ってらっしゃる方もおられた)、ちょっとあり得ないようなシチュエーションなのにスルリと受け入れ最後はジンワリしちゃうようなストーリーが繰り広げられる
見終わったときに2時間という時間が過ぎたなんてちょっと信じられないくらい濃密な時間を過ごした気になった
大好きな『トロイメライ』が追い討ちをかける
軽くて後味が良いという意味の短さではなく、激しさや激動を感じさせないわりとゆったりとした印象の会話のペースや展開とは裏腹に、感情が乗っていく波が非常に心地よい
体を預けているうちにいつの間にか波のてっぺんに登りつめ気がつけば海の底にいるんだけれど、一切の負荷がなかったから高く打ち上げられる恐怖も、海の底に沈んでいく息苦しさも感じなかったというような感覚
それなのに、気がつけば息苦しさを感じるくらい溺れ、意識はその世界観にどっぷりと浸かっていた
息が合い肌が合い流れる空気感など、総じて心地よい
『魔法』の古川琴音の演じる自由で繊細な女の子は魅力的で“ないものねだり“の憧れを感じ、中島歩の低くて色気のある声にドキドキした
『もう一度』もあり得ないような展開が穏やかに紡がれていくが、2人の女性の透明感や聡明な雰囲気とで風が爽やかに駆け抜けるようだった
そして『扉は開けたままで』が、渋川清彦出演作品
下らなくてどうしようもない、でも満たされたくて不可欠な情事を重ねることで自らの価値を低めているような孤高の美女が、本来求めているものを掴めそうな瞬間を見事に逃してしまう滑稽さと切なさとを感じてしまう
渋川清彦は役柄的にワイルドさや男臭さが溢れ出ている感じではなかったが、超個人的な意見として、抑圧されたような中に垣間見える『色気』とか『色香』にそそるものがある
楽器の演奏、絵や書の線、洋服の着こなし、仕草など全てにおいて最小限に抑えられた表現にこそ官能的なものを感じる事がある
譜面通りの正しい運指で個性や抑揚を出しすぎない演奏
鍛錬を重ねた力みのない迷いない筆運びで作者の意図や感性を可能な限り抑えた線で描かれた(書かれた)線
肌の露出や体のラインからではなく、誰もが振り返る洗練されたお洒落な感じでもないのに、色やサイジングで知らぬうちに自らの魅力が引き出された着こなし
空気感を纏う仕草から出るその人の本質的なにおい
渋川清彦演じる大学講師はごくシンプルなシャツにパンツという出で立ちで、白髪交じりのボサッとした髪と少し肉が削げたような頬で力なく微笑む表情がたまらなく色っぽかった
雨の中余韻に浸りながらのんびり帰ったら日付が変わっていたけれど、いい夜だった
そんな、雨降る夜の映画鑑賞の記録