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「ピテカントロプス」 第1話

第1話 奴

その黒光りする卑しいアームは、確かに僕の方を向いていた。マットブラックとメタリックブラックの中間のような妙に気持ち悪い黒と対比されるように噴き出す白い蒸気に、目を囚われ僕の全身は動くという事を忘れてしまった。奴のアームはなんとも言えない放射音を出す。どんな言語を用いても表せない複雑さと心底不快になるようなモスキー音を掛け合わせたような。

とにかく、奴は僕に向かって放射したはずなのだ。奴のアームの放射速度はおよそ0.1秒。従来の製品は少なくとも3秒はかかるはずだが、奴が一発目を打った時には、奴のアームは改造された違法品である事がわかった。おそらく闇市場に出回る星を見る人々の所業であろう。それにしても、あんなに早い放射は見たことがない。二発目には、リロード速度も桁違いに早いこともわかった。打ち負けると思った時には既に遅かった。奴は絶対に手加減をしない。というよりも躊躇という動物としての保護機能を排している為、止まる事を知らないのだ。

1秒後、結局消えたのは奴の方であった。10分経った今でも何が起こったのかわからなかった。メーターの残量を見る限り、放射してない事は明らかだったが、何しろ奴は消えてしまったのだ。アームはきちんと使えば、安全かつ任務の遂行にとても便利な道具だが、射程距離、射程範囲ともに他の道具より圧倒的に狭いので、扱いが難しい。その為、公共公営法によって無許可のアームの使用は禁じられている。

「あれは誤爆だよ。リロードが極端に早かったのは、安全装置を取り外しているからだ。」

後ろから野太い声が聞こえた。

第2話 計画者という男

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