その光が照らすもの 16.東京制覇 4

ワゴン車が今見ている建物の近くで止まる。そこから出てきたのは三人のマスクを被った人と神谷双葉だった。誘拐されたというのにその女は抵抗しているようには見えず、自然な足取りで入って行った。
その後、バイクが一台止まった。その人は身をかがめ、抜き足差し足のような動きで建物に入って行く。
その次に来たのは荒々しくバイクを乗り回す金髪男だった。ドリフトを華麗に決め、先ほどとは対照に堂々と入って行く。
「あの人が小室晴人ですか?」
背後にいる部下がその姿を見て聞いてくる。
「そうだ。俺たちの当分の目標はあいつを潰すことだ。あの顔をよく覚えておけ」
「そう言われても、ここからじゃよく見えないんですけど」
イライラしてその部下の顔を窓に押し付ける。
「痛い。痛いです、羽田さん」
窓に張り付いているのでなんて言っているか聞き取りずらかったがこう言っているのだろう。
羽田と呼ばれた男は手を離してやり、もう一度外を注視する。
最後に来たのは三十二人。一団となってこれまたもの凄いスピードで走っている。この中の誰かがスピードを速くしても遅くしても前後のバイクと衝突して大事故になりかねない車間で。
バラバラにバイクを乗り捨てるかのごとく乱暴に止め、建物の中に走って行く。
すると突然、
「海堂!」
という窓が震えるほどの怒号が聞こえた。
「今だ。野郎ども、やっちまいな」
羽田は醜い笑みを浮かべ、部下に命じた。その部下は足早に出て行く。
「古谷、俺たちも行くぞ」
羽田と古谷は廃工場の近くにある事務所として使っていた二階建ての建物の二階にいた。
外には二台のトラック。その荷台に部下が二十人ずつ入る。
二人とも外に行き、もう一度指示をし、廃工場に向かう。正面の一番大きい扉を全開にする。その扉は重く、さらに錆び付いていても二人はいとも簡単に開けた。そうして開かれた入口は優にトラック三台が通れる広さがある。
そこをアクセル最大で二台のトラックが走り抜けて行く。そして晴人たちがいる部屋の壁目掛けて突っ込んで行く。
トラックの前が完全に壁より向こうに出ており、壁は人が二人は通れそうなほどの大きな穴が開いた。
その穴から入ると誰しもがこちらを向いていた。可笑しい点が一つ。それは夜覇王を陥れていたはずの人たちが夜覇王たちに抱き抱えられていたところだ。その格好はまるでトラックから守ったかのようだ。
何故敵を、と思考を巡らせている内にトラックの後ろに乗っていた部下がどんどん出てくる。そして疑問が解消する前に作戦の第二フェーズに移行しなければなくなった。
「我々は古書の主だ。許可なく我々の領土に入るとはどういう了見だ?」
「どの口がほざく。先に手を出してきたのはお前らの方だろうが」
翔が牙を剥いて怒鳴る。
「今俺は機嫌が悪いんだ。戯言を吐くなら潰すぞ」
晴人が鬼気迫る表情で睨んでくる。
首筋がゾッとする。今までで数度あった強者にのみ放つことができる圧力。怒りや恨みや憎悪などの負の感情が篭った眼力。羽田たちの長である海堂瀬成も使えるこの重圧に慣れることはなく、足はガクガク震えるわ、冷や汗がダラダラ流れてくるわで動くことができない。
それでもここで引くわけにはいかない。作戦は多少どころではない誤算が生じているが、止められないところまで来ている。
「ここを我々の領土と知っての愚行か?」
グループの幹部としての自尊心だけの虚勢を張る。
「知っているさ。だったらどうする?」
晴人が挑発するように言う。
「我ら、古書の主への宣戦布告と捉え、滅びるまで叩き潰す。野郎ども、やっちまえ」
羽田の掛け声で部下たちが夜覇王に襲いかかる。

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