その光が照らすもの 6. 高校生アイドル 神谷双葉 2

双葉はゲームをする晴人の後ろ姿に畏怖の念を抱いていた。昨日会ったときとまるで正反対な背中。当たりの良い、明るくて、少しお調子者だったはずだ。それが今は恐怖さえ覚える、鬼か悪魔に見える。
「なになに?知り合い?」
「ちょっとね」
双葉は友達の質問の回答をはぐらかした。皆には知られたくなかったからだ。なぜならアイドルの双葉が不良と知り合いなんてばれたら騒がれるだろう。
双葉はすぐにまたリズムゲームのところに戻り、皆で点数の高さを競った。

晴人がゲームを終えると拍手が沸き起こり、それは双葉にも聞こえた。当然何が起きたのかと拍手する方を見ると疲れたようなぐったりとした顔をしている晴人を見た。
声をかけるつもりはなかったのにどうしても晴人と話がしたくなった。それはたぶん晴人の弱い部分を見たからだ。
友達には声をかけず、晴人の後を追う。
「凄いですね、晴人君。こんな才能があったとは」
何故か挑発的な言い方になってしまった。
「あーん、双葉ちゃんに名前を憶えて頂いていたとは光栄です。まあ、ゲームセンターは不良の住処みたいなところですから」
前会ったときと同じく双葉に対して敬語を使うのに違和感を感じる。
双葉が黙っていると晴人の方から話しかけてきた。
「こんなところで何しているの?」
「この四人で遊んでたの。そうだ、晴人君一人なら私たちと一緒に遊ばない?ねぇ、いいでしょ?」
双葉は後ろに立つ三人にも尋ねる。
「まさか双葉ちゃんに逆ナンされるとは」
自分の言ったことを頭の中で繰り返してみて、自分が何をしたのかわかった。顔が赤くなるのがわかり、汗が出てくる。
そんなこと言わないで、と心で叫ぶ。周りには友達がいるのだから。
「けど、ごめんね。とても嬉しいんだけど、そろそろ帰ろうと思ってたんだ」
晴人はじゃあねと言い、逃げるようにその場から離れた。

晴人の背中が見えなくなると友達の一人、富津円が言った。
「あの人とは関わらない方がいいよ。悪い噂しか聞かない」
「どういうことです?詳しく聞かせてください」
「彼はここらで有名な不良だよ。本当かどうか知らないけど百人以上の不良がいるグループに入ってるなんて噂まで聞く。何か起こる前に縁を切っておいた方が良い」
確信を持った声音だった。他の二人もうんうん、と頷いている。

だがしかし双葉にとってはそうには思えない。初めて会ったとき、晴人から声をかけられたとき私は暗い気持ちでいた。仕事があまり上手くいかず、不安しかなかった。そんな私に気付いて声をかけてくれたんだと思っている。
不良であることは認める。髪は金だし、腕っ節は強いし、さっきだって殺気だっていた。
でも悪い人とは思えない。

双葉は確信を持って言った。
「それでも私は彼の事が知りたい。彼のことを知ってからその先を選択する」
「あっそ。手遅れにならないことを祈るよ」
険悪なムードになりつつあった。
「それは置いといて。まだ遊ぶでしょ」
そう言ったのは円だった。その一言ですぐにその空気は消えた。
「はい」
双葉は元気よく返事をした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?