その光が照らすもの 20.幕間

誘拐事件から一夜が明け、双葉は事務所に来るようにと連絡があった。仕事に行けず、夜まで連絡を取れず行方不明となっていたから呼ばれることはわかっていた。
そして現在三十分以上事務所にいるのだが誰も双葉の相手をしてくれない。とりあえずお茶でも入れて双葉の所属する部署の会議スペースで待っているのだが、誰一人として現れない。
事務所に着いて最初に向かったのは総合事務室。マネージャーは双葉の仕事がないときは部署外の仕事をやっている。だから急の呼び出しのときはいつもそこにいる。
総合事務室は普段より慌ただしい雰囲気であって、いつもならマネージャーと一緒に部署に行くのだが今日は一人で行き、待っていてと言われた。
慌ただしさの原因は双葉なのだろう。そう考えずにはいられない。昨日も晴人が帰った後、疲れたからと半ギレでマネージャーとの話を早々に切り上げた。だからマネージャーに会うのは気まずくはあったが気に留めていない様子だったので胸を撫で下ろした。しかし迷惑は現在進行形でかけているのだから謝っておいた方が良いのでは、といろいろ悩んでいたらようやくマネージャーが部長と社長と一緒に来た。
双葉の隣にマネージャーがテーブルを挟んで向かい側に部長が、その隣に社長が座った。
「遅くなってごめんなさい。電話が鳴り止まなくて」
「それは私のことですよね」
マネージャーが黙っていると部長が静かに言った。
「そうだ。君の昨日の件で電話が朝から鳴りっぱなしだ。今、君とは関係のないマネージャーも対応に当たってもらっている。君のせいで会社全体が機能しなくなっている」
「そこまで仰らなくても。そもそも誘拐されたのですよ」
「確かにそうだ。しかしその後は遊んでいたそうではないか」
「それは理由があってのこと」
「理由とは?」
マネージャーはすかさず双葉の方を見た。双葉はそこで渡すのと驚いたが自分がしたことだし、一夜考えて聞いてくるであろう質問の対策はしてきた。
「昼間に戻ったら騒ぎになると思ったからです。誘拐を白昼堂々とされて騒ぎになったのに、さらに騒ぎを生むと思ったからです。それに夜なら晴人君といるところを見られることもないですし」
「しかし何故こちらの連絡を無視した?」
「どんなことを言っても帰ってこいと言われるのがわかっていたからです」
「当たり前だろ。自分を誰だと思っている?今では……」
「女子高生です」
部長の言葉を遮って言った。
「何を言っている。お前はアイドルなんだぞ。わかっているのか」
部長はテーブルを叩いて怒鳴った。何故そこまで、と思うくらいの必死な形相で。
「わかっていますよ。私は女子高生アイドルです。アイドル女子高生ではありません。大事な方が言葉の先に来ます。だから私は女子高生です」
屁理屈のような双葉の持論。そんなものが通じるはずがないのだが、今まで口を挟まなかった人が口を開いた。
「確かにその通りかもしれないのお」
社長が笑いながら言った。社長は七十歳近くと噂されているが、誰にも経営交代をしろと言われたことがないほど人望が厚い人だ。
「それより驚きなのはショッピングモールにいて誰にも気付かれないことじゃよ。どうしてだと思うかのお、そこの若いもん」
「それは誰もあの中の人と関わりたくないからだと思います。誰がどう見ても怖い人たちですよ。それに私は輪の中心にいましたから、よく見ないとわからなかったと思います」
今考えてみれば輪の中心にいようとしていたわけではなく、夜覇王の人たちに囲ってもらっていただけなのだと思える。
「不良の方たちと一緒にいたのでしたな。そうそう、週刊誌のことは本当なのかね?」

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