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学習理論備忘録(32) 『転ばぬ先の転び』

Learning and Behavior Therapyで限局性恐怖症のことが述べられているので、それについて述べる。


・ヘビが怖い!だから触らない。


これが著しい恐怖であるとする。


だが病気の分類上「(限局性)恐怖症」として診断されるのは、恐怖のせいで困るときである。

「ヘビが怖い!」という恐怖のせいで日常が差し支えるのは、父の仕事をつごうとしているヘビ使いの子供くらいだろう。この場合、ヘビには日常的に接するし、その恐怖のせいで困ったことになるのでヘビ恐怖症ということになる。



ここでどうして恐怖症になるのかを考えてみたい。


まず普通に考えられるのは何か恐ろしい体験をして、条件刺激(CS)と無条件刺激(US)、無条件反応(UR)の連合が起こるというもの。ヘビに噛まれたのでヘビの形にさえ恐れを抱くというのはよく分かる。

またUSへの期待(「ヘビに噛まれるのでは?」)というものも恐怖症をもたらしうる、と説明されている。たとえば、他者がヘビをキャーキャー怖がるのを見ることで、自分も怖くなるということがある。ヘビに噛まれる体験をしていないので、これは間接的な学習とでもいうべきものである。




さて気になるのは、恐怖症になる人とならない人がいる、ということをどう説明するか、である。

何か恐ろしい体験をしても、多くの人は、過剰な恐怖を抱く恐怖症にはならない。

恐怖症になる一部の人は、潜在制止がなかったのかもしれない。たとえばクモを見る機会が少なければ、潜在制止が起こらない。


ならば恐怖症になる前に、潜在制止を利用することによって恐怖症を予防をするとよい、と考えられる。

ワクチンによる免疫のようなものだ。予め病原体(恐ろしいもの)に晒しておくことで、それに慣れてしまうのである。刺激は最初は中立だ。たとえばヘビも、だれも怖がっておらず噛まれるようなこともなければ、ヘビを見るという刺激もどうということはない。それが続く。

しばらくして、ある日ヘビに噛まれる。だが、その後もヘビを過剰に恐れることはなくなるのだ。またヘビを見たり触ったりできる!



先ほど述べたように、ヘビ恐怖症はあまり臨床のテーマとして扱われない。だが、「歯医者さんが怖い!」という歯科恐怖症は、歯科治療がむずかしくなるということで困ってしまう可能性大である。だから問題なく「歯科恐怖症」と診断してよく、治療対象となる。


ヘビに出会う確率 << 歯科に遭遇する確率



歯科を回避しても歯科恐怖は改善されない。抗不安薬を使って不安を下げれば、歯科には行きやすくなるかもしれないが、治っていないことは同じである。そのうちその薬が手放せなくなって、更なる問題が起こるかもしれない。


結論を言うと、潜在制止を利用した歯科恐怖症の予防については、前向き研究、後ろ向き研究共にあるが、RCTと呼ばれるエビデンスレベルの高い研究まではない。

初回受診の恐怖の軽減は観たが、獲得される恐怖の軽減に失敗した研究があるのと、恐怖症にならない人は初回受診から歯科で怖い思いをするまで2、3年以上のタイムラグがあることを発見した後方視的研究がある。


潜在制止。使える可能性はアリ、と言っておこう。


Ver 1.0 2021/4/17

学習理論備忘録(31)はこちら。



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