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みんなと私の『動機づけ面接』ーークライエントとの同行二人指南(20) 『よけいなひと言を好かれるセリフに変える言いかえ図鑑』を購入して

動機づけ面接とは、ひとつの方言である。他のカウンセリング技法をする人と同様、動機づけ面接を行う人はバイリンガルとなる。ここで言うバイリンガルとは「もっとも自然な話し方以外の話し方を、意識してする人」という意味である。


今回もまたまた書籍から動機づけ面接の話をする。『よけいなひと言を好かれるセリフに変える言いかえ図鑑』という本を買った。実は、この本の動機づけ面接版を作りたいと思っていたのだ。意識して言葉を選ぶ、というテーマに合致しているからである。

たとえば『よけいなひと言を好かれるセリフに変える言いかえ図鑑』には、

「早くしなさい」

「宿題は30分で終わらせようね」

といった言いかえ例が載っている。カウンセリングでも同様で、「より好ましい言い方」というものはあり、スーパーバイズなどでもこのようにある言い方を別の言い方に変える提案をされることがある。

言いかえ例から帰納的に学ぶと、理屈から面接を学ぶよりも具体的で実践的に学べるかもしれない。「ああ、こういうときはこう言うんじゃなくてこう言うほうがいいんだったよな」というのを現場で思い出して修正しやすくもあるからだ。

そういうわけで、『平凡なひと言を動機づけるセリフに変える話を聴く人のための言いかえ図鑑』の始まりである。以下オリジナルを真似て、ですます体で記す。いきなり第3章である。


第3章 引き出す


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単純な聞き返しとして「面倒なんですね」は良い
できれば複雑な聞き返しで気になっているところに触れるように

 医療者の中に「○○しないと将来は……」と患者さんを脅す人をよく見かけます。「患者さんのためなら恐怖を煽ってでもさせなくては」という思いは判らないでもありません。でも人には苦手なものがあります。

 脅しは、トマス・ゴードンの『コミュニケーションを阻害する12の障壁』のひとつです。カウンセリングではそれを避け、相手の言葉をなぞるということがよくなされます。ここでは相手の「面倒で」という言葉を踏まえて、「面倒なんですね」と答えていますね。動機づけ面接では『単純な聞き返し』と呼ばれるものです。受容的な関わりなので、よく使われます。

 ですがこれでもまだまだです。相手に行動してもらうためには、チェンジトークを拾いましょう。ここでは緑字の「まずいとは思う」がそれに当たります。それを単純な聞き返しでなく複雑な聞き返しで「このままだと歯が抜けて、老け顔になるし」「歯が丈夫だと笑顔に自信が持てる」など、より具体的に相手の思いを仮定し、断言する形で言いかえるといいでしょう

 医療者が難なくできると思うことでも、患者さんにとってはとても難しいことであるということはままあること。得意不得意にも個人差があります。楽をすることが大事とか、効率が大事というように、価値観も人によって違いがありますから、どんなに必要なことであれできる人と中々せずにいる人がいるのは当然なのです。

 ただ、できない理由を聞き返すと、患者さんはますますやる気をなくす一方です。患者さんのチェンジトークを見つけ、その意味をより”具体的に”表現すると、行動をうまく導きやすくなります。



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批判をするほど、クライエントの反発心は強くなる

 ほとんどの人は痩せるのが得意ではありません。特に糖尿病などの生活習慣病の患者さんは、「もっと食べたい」「運動は面倒くさい」と言い訳をするので、医療者はつい「それはいけません」「運動しないとだめですよ」などと禁止・警告してしまいます。

 もちろん、患者さんから「そろそろたくさん食べてもいいですか?」と聞かれ、「まだダメです」と答えるのは結構です。しかし本人がすでにやったことに対して「いけません」「やる気がないんですか?」と非難・批判すると、「もういいや」と開き直り、動機づけが下がります。

「運動の重要性が判ってないと(私は)思わざるを得ません」「残念です」といったアイ・メッセージも、ややていねいにはなりますが、それでもまだ非難であることには変わりありません。できれば「ノー」と言わず、患者さんの自尊心を潰さぬよう変化に導きたいところです。

 やる気を引き出す対応を考えましょう。そのような複雑な聞き返しをスムーズに考えるためには、まずチェンジトークを考えます。たとえばここでは検査後の診察室を想定していますから、患者さんが「検査の数値が気になります」というチェンジトークを言う可能性があります。それを控えめに「検査の数値が少し気になった」カウンセラーから言ってしまいましょう。

「いけません」と禁止するのではなく、「◯◯しないとまずい」「こんなふうになってしまうかも」などと、変わらないことの不利益を患者さんの立場で言って感情に訴えれば、患者さんも追い立てられてより積極的に行動しやすくなります。

 チェンジトークをこちら側で考えるときには、患者さんが少しでも気にかけていそうなことに目を向けるとよいでしょう。辛い思いをするのはイヤだとか、入院が怖いといったことは誰でもありますから、そういったことのうちのどれか見当をつけて言い切ってみることです。


*        *        *


以上、真っ先に思い浮かぶ言葉ではなく


「言いかえ」


をする話を述べた。他のカウンセリングでなされるような指導の、さらに一歩先の対応にしてみた。いつもの言葉と違う、グレードを上げた言いかえをするというところに、カウンセリングの技術がある。



動機づけ面接の記事はこちら


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