【ショートショート】【数理小説(19)】 『数学ダージリン』
情報工学が重視される現代、解析学・微積分学よりも非線形の離散数学が必要とされた。人手で計算するには限界のある分野だ。そこでAIがそれを担うようになる。すると興味深いことに、数学徒が増えた。AIアシストは、ADHD傾向のある、優秀だがケアレスミスの多い者たちに数学のハードルを下げたのだ。
社員はプレゼンをしていた。
「…というわけで、数学の成績は人々の収入や幸福度を大きく左右します。親は子の数学力を上げるのに必死です。じつは、数学の成績を左右するのは知能よりも恐怖心だと言われています。そこでこちらを」
「紅茶?」
「はい。インドは数学に強いイメージがあります。しかも香りの乏しい雨季のダージリンは安価です」
『数学に強くなる』という触れ込みで、雨季のダージリンが「数学ダージリン」と呼ばれ、売られるようになる。
数学はさらに普及し、競技数学まで盛んになった。
カフェインを含んだ飲み物の摂取は、ドーピングとなってしまった。
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