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無個性の僕が、うどん屋でデザイナーに怒られた件

僕は、これまでデザインやらクリエイティブとは無縁の生活をしていた。
人並みに好きな音楽もあるし、趣味もあるけれど、
自分をこれまで「個性的だ」と思ったことなんて一度もない。
それなのに何の因果か、「(株)人生は上々だ」という
オシャレなクリエイティブカンパニーで営業の仕事をしている。
どこからどうみてもフツーのサラリーマンなのに。
想像してみてほしい、クリエイティブカンパニーという会社を。
そこには魑魅魍魎の個性派人間たちがウヨウヨしている。
フツー人間の僕からしたら、彼ら彼女らは妖怪のようなものだ。

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その妖怪たちのボスと言えるのが、代表の村上モリロー氏。
このボスは、いわばNIKE妖怪。
ここ数年、NIKEの服しか着ていない。
しかも求愛行動なのか、威嚇なのか、
派手な色の服ばかりチョイスしている。
盗んだバイクで走り出す若者と一緒だ。
年中お祭りだと勘違いしているのではないだろうか。

それでも営業として僕は、それなりに仕事をしてきた。
自分でもよくやっていると思う。
しかし、理不尽な事件が起きた。
それは、うどん屋でのランチミーティングのときだった。

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弊社では毎週水曜、メンバー全員でランチミーティングを行う。
妖怪の巣窟会社なのに、たまにまともな会社のようなことをする。
その日は、高松市にある「おうどん 瀬戸晴れ」さんにお邪魔した。
ちなみに、「おうどん 瀬戸晴れ」さんは、めちゃくちゃうまい。
僕にクリエイティブなセンスがないから、うまく表現できないが、
とにかく、うまい。うまいもんはうまい。それでいいじゃないか。
昨年OPENしたばかりの人気店なので、ぜひ足を運んでもらいたい。

瀬戸晴れさんでは、いつも「かけうどん・そのまま」を注文する。

まず「そのまま」という馴染みのないワードを説明すると、
一般的なかけうどんは、麺をお湯にくぐらせてから、かけ汁をかける。
「そのまま」は、常温の麺のまま、かけ汁をかける。
つまり、「ぬるい」うどんだ。
そうすることで、猫舌でも一気に食べられるし、
麺がゆるくならずにコシも楽しめるのだ。

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その日も僕は「かけ・そのまま」と笑顔で注文した。
各自それぞれの注文が終わり、店員さんがテーブルから離れたとき、
モリロー氏が静かに口を開いた。
「Yさん、そういうところやで」
ん? そういうところって何が?
「いっつも、そのままやん」
何が悪いんや。好きなもんを注文しているだけやん。
僕は言いたいことをグッと胸にしまいこんで、モリロー氏の言葉を待った。

「絶対、Yさん冒険せんよな? お店のメニューで」
は? 好きなんやから、いいやろ。

それでも僕は黙った。サラリーマンだからだ。


「あのな、クリエイティブな仕事をしているんやったら冒険せな」
「新しいことを知らんと、アイデアも生まれんやろ」
「自分の想像通りのものを頼んで、それを食べて、何の発見もないやん」


おっと、うどん屋でここまで言われるとは。
クリエイターという人種は、ここまでめんどくさいんか。

しかし、モリロー氏の言葉は続いた。
「あのなぁ、選択するために考えることから逃げたら、いかんので」
うん? 何やら、深い話になってきているぞ。

「たとえば一年のうちに半年、うどん屋に行くとしようや。そうしたら年間約182回はメニューをオーダーするチャンスがある。ここで毎回、悩んで考えて答えを出していれば、考える力も、答えを出す力も身につくやろ」

まず、年間182回うどん屋に行くなんて、うどん県人ならではの発想だが・・・まぁ、良しとしよう。
「これを30年やり続ける人と、まったくやらん人で、どれだけ差がつくか。182回の30年やぞ。そらすごい差やぞ」
それはそうだけど、クリエイターという妖怪は、想像以上にストイックだ。
毎日そんな考えをしながら生活するのって、しんどくないのだろうか。
「せめて、うどん注文するときぐらいは考えて選ばんと」
ついに僕は口を開いた。
「そうすねぇ、でも猫舌なので・・・」
「だったら、ざるうどんでええやん」
かぶせるようにモリロー氏が言ってきた。
こいつは、もうこうなったら聞く耳を持たない。
いつものように、はいはいと流しながら、
早くうどんよ来てくれ、と願っていた。

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そして美味しいうどんが到着し、
僕たちは、無言で食べた。
ランチミーティングなのに。
それでも黙々と食べ続けた。サイレントミーティングだ。
ただ僕の中では、サイレントの時間と共に
モリロー氏の意見がじんわりと腹に落ちてきた。
確かに、同じメニューばかり食べ続けるのは、
未来の可能性を狭めていることと同じだ。
冒険しない人生は、想像通りの人生しか訪れない。
それに僕の中に、「そのまま」とコールするときに、
うどん通になったかのような優越感はなかっただろうか。
他の人はこんな頼み方せんやろ、というドヤ感はなかっただろうか。
もしかしたら僕は、「そのまま」と言っている自分が
かっこいいと思っていたのかもしれない。

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そんな自意識は、営業の仕事では無用だ。
そこまでモリロー氏が見抜いていたのだとしたら
やつは正しい。さすがクリエイターだ。完敗である。
食べ終わり、店主に挨拶をして店を出た。

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するとモリロー氏がまた言ってきた。

「そういうことやで、Yさん」

僕はさっきよりもおだやかな気持ちで、
そうですね、と答えた。
そして駐車場までの道のり、
目の前を歩いているモリロー氏の姿を見て、ふと気づいた。

お前、いつもNIKEしか着てないやんけ!冒険しろや!

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それでも僕は何も言わなかった。
フツーのサラリーマンだからだ。

つづく・・・かも

シルエットY氏

<プロフィール>
Y氏
営業職/フツーのサラリーマン

香川県に産まれて、高校までは町内で過ごし、大学は高知で過ごし、そのままTSUTAYAでCD販売、ビデオレンタルの仕事をして、香川に戻り派遣会社の営業を経て、デザイン、ブランディングの営業、物販などをやっております。バスケットボールが好きです。

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