見出し画像

『金雀枝荘の殺人』読了

こんにちは、深見です。
今邑彩氏の『金雀枝荘の殺人』を読了しましたので、感想を書いていきます。

あらすじ

完全に封印され「密室」状況となった館で起こった一族六人殺しの真犯人は、いったい誰だったのか。事件から一年後、真相を探るべく館にやってきた兄弟たちは推理合戦を繰り広げる。そして、また悲劇の幕が開いた……。恐怖と幻想に満ちた本格ミステリー。

中公文庫『金雀枝荘の殺人』裏表紙 あらすじより引用


感想

本格ミステリーのお時間じゃ!
深見はミステリーが好きです。嵐の館、見立て殺人、一族殺し、密室不可能犯罪。そういう文句がある本に、ふらふら引き寄せられます。

そんなんなのに、「金雀枝荘の殺人」をまだ読んでなかったんですか? と言われたら、はい……とうつむくしかありません。読んだことなかったんです。読みました。面白かった。

本格ミステリーを読む前には、その作品がどの時代に書かれたものなのかをまずチェックします。
ことミステリーというジャンルでは、時代背景は非常に重要な要素のひとつです。嵐の館に閉じ込められるにしても、個人が気軽にインターネットにアクセスできる時代なのかそうでないかは、ストーリーに大きな差異を生むのです。

『金雀枝荘の殺人』が発表されたのは、1993年。携帯電話もまだ普及しておらず、公衆電話やポケットベルが現役の頃でしょうか。ミステリーの舞台としては適した時代といえるでしょう。


感想に戻ります。
『金雀枝荘の殺人』は、一見してよくある「館殺人」系の物語です。富豪が建てた豪奢な館に、その一族が集います。そこで、世にも恐ろしい凄惨な連続殺人が起こるのです。
これだけでも中々にこてこてなんですが、さらに見立て殺人要素も加わります。こってこてです。深見、大喜び。

本格ミステリーはこうでなくっちゃ。章の始めに差し込まれる、「おおかみと、七ひきの子やぎ」の引用も最高にぞくぞくします。これから、この通りの殺人が起きていくんだぞという、読者への提示。
ミステリー小説にしばしばあらわれる、作者から読者への作品を仲介したメッセージが好きです。
これから事件が起こるって、あなたは知っているよね? 次は誰が殺されるのか、もう分かったよね? さあ、あなたは真相に気が付けるかな?

そしてその傲慢不遜な(褒め言葉です。ミステリ作家よ傲慢であれ)問いかけののちに、その傲慢さにふさわしいスリルと謎が提示されるのです。
『金雀枝荘の殺人』ももちろん、素晴らしい謎と謎解きとを見せてくれました。


惜しむらくは、この作品における「メインの事件」が過去のものだったゆえに、(そして本作品に登場するトリックの性質上)どうしても事件そのものを詳細に描くわけにはいかず、いまいち臨場感に欠ける感が否めなかった点でしょうか。

全て読んでしまえば、「ああ、こういうトリックなら確かに、あんまり詳しく描写は出来ないよなあ」ということが分かるのですが、読んでいる最中は佳境でブツ切りにされる感覚が続き、若干不完全燃焼でした。

館殺人や見立て殺人は、その過程における人間関係の変化、元々あった歪みの表面化、異常化していく精神状態、などが魅力ですからね。そこが見られなかったのは惜しい。

物凄く、ものすごーく我儘で横暴な要求である自覚はあるのですが……

……もう一回、見立て殺人やってほしかった!

過去の見立て殺人を解決しに来た人たちも、第二の見立て殺人に巻き込まれてほしかった!
解答編がちょっと性急すぎると思うんです。スリルと疑心暗鬼という点ではもちろん満点だと思うんですけど、ミステリーの読者らしく(?)傲慢に、ここは欲を言いたい。文庫が倍くらいの厚みになっても買うから……。

あと何回読み返しても笠原さんが可哀想すぎません?


以上、なかなか面白かったな、という感想でした。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?