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緊迫のかけひき シロクマ文芸部御中

書く時間が必要だった。
バスに監禁されて4時間。外への要求に何らかのメッセージを込めたいが、頭が回らない。
「さっさと書けよ」男は三日月のような目を更に細めた。
―5人分の食事
—フェノビバル錠
そう書いて男に渡した。すると案の定訊いてきた。「何なんだ?この何とかってのは」
「血栓ができるのを止める薬です。定期的に飲まないと命の保証はない」
「誰だ?ああ、ばあさんは出て行っていい。厄介はご免なんだ」
しかし、おばあさんは、妊婦の女性を先にと言った。
「なんだと!妊婦がいるのか」男は若い女性を睨みつけた。
「ついてねぇ。とにかく飯を持ってこさせろ」
男はナイフの峰を運転手の顔に押し当てた。それで男が冷静だとわかる。

犯人以外の4人で食事を摂ったが、特に空腹だったわけではない。
それから1時間ほど経過し、何もないことを確認して男は食べ物をガツガツと頬張った。
遅効性の眠剤が功を奏した。眠りに落ちたバスに、警察官が悠々と乗り込んできたのは言うまでもない。

小牧部長さま
今回もよろしくお願いいたします。

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