アニメ映画『音楽』感想

今回はアニメ映画『音楽』の感想です。

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大橋博之のマンガ作品を原作に、岩井澤健治監督が7年以上の製作期間をかけた劇場版アニメ。
不良高校生研二が思い付きで、全く楽器経験無い3人でバンドを始めて…という物語。

元々、原作マンガの『音楽』自体がとても好きな作品だったんですけど、(というか作者の大橋博之作品の大ファンなんですよね、僕は)この作品って音楽マンガの中でも、ズバ抜けてベストだと思っています。

そもそも、音楽をマンガで描くのって難しいんですよね。作中でオリジナルのバンドを描こうとする時、現実にあるバンドをモデルにした時点でニセモノ感というか、個性がないものにしか見えなくなってしまう。
ところが、この『音楽』というマンガで生まれるバンド「古武術」は、個性の塊のような音楽性というのが、作品から伝わってくるんですよ。
「古武術」の演奏力と同じに、マンガの作画自体も全く技巧的ではないにも関わらず、変にドライブして音が振動する迫力がある作品です。

そんな作品のアニメ化ということで、期待はしてたんですけど、主役である研二の声優を務めるのが、あの元ゆらゆら帝国の坂本慎太郎という情報が出た瞬間に、間違いなく傑作になると確信しておりました。

アニメにはきちんと技術をもった声優を使って欲しいという考えも分からなくはないんですけど、個人的には、技術はないがどう考えてもハマっているという人の演技が好きなんです。(『風立ちぬ』の庵野秀明とか、色々言われるけど、僕としてはああいうしゃべり方の人として受け取りました。)
これはアニメに限らず、実写の場合でもそうです。そのキャラクターを描く時に、演技力で表現するのか、空気感のようなもので表現するかの違いだと思います。
後者の場合だと、キャスティングや演出の巧さというのが際立って見えてくるのが良いのです。(もちろん、技術的に素晴らしい役者の演技も好きですから、作品に合っているかどうかだと思います。)

坂本慎太郎の演技はその極致という感じで、棒読みというより、ほとんど「無」なんですよ。これが、主人公の研二という人間だけでなく、大橋博之作品の空気そのものを表現していたと思います。技巧的ではなく、妙にゆったりしているんだけど、変に迫ってくるものがあるという。
その他のキャストである竹中直人、前野朋哉、平岩紙などの役者陣も、声優的な演技は一切せず、たっぷりとした台詞のしゃべり方で、同じ空気になっていました。

それに関連しますけど、このアニメ、「間」の取り方がもの凄い独特ですね。台詞をしゃべるまで、もの凄く長い沈黙があったり、とにかく時間が止まっているような演出が多いんですよ。

その演出がまた、原作の空気感を見事に再現しているんですよね。監督の岩井澤健治さんは7年かけて作ったそうですが、本当に素晴らしい仕事だと思います。(個人的には別作品『シティライツ』に登場する、圧迫するのが好きな『アッパくん』を登場させたところに大拍手)

あと、この作品で素晴らしいのは、やっぱり演奏シーンですよね。3人で、チューニングもしていないベース2本、スネアとフロアタムだけのドラムで、とりあえず音を鳴らしてみたら、すんげえ気持ちいい音楽が出来てしまうという場面。

バンドやったことない人から見たら、ギャグみたいに思われるかもしれないんですけど、これってめちゃくちゃリアルですからね。
僕もバンドやっていた時分、ジャムセッションで曲を作ることが多かったんですけど、ごくたまに「いや、もうできたじゃん!」て感じで、一発で曲が生まれる経験があるんですよ。
その時の気持ち良さは筆舌し難いものがありまして、完成度とか、他の人が聴いたらどう思うかとかどうでもよくって、「まずオレらがこれ好き!」っていう納得感があるんですよ。

ミュージシャンで薬物に手を出す人が多いのって、世間からはクスリの力に頼って曲を作っているというイメージがあると思うんですけど、あれ逆ですよね。曲できた時の快感を、クスリで簡単に疑似体験できるから使ってしまうんだと思うんですよ。(風邪薬と花粉症の薬しか摂取したことないから知らないですけど)

この作品みたく、気の合う友達とか、価値観が同じ人と、「いっせーの」で音を鳴らすのがバンドの醍醐味だと思います。
甲本ヒロトが、「バンドの目的は結成することでそこがゴール、結成した時のワクワクが目的」というようなことをインタビューで答えていたのを目にしたことがあるけど、それを形にしたのがこの『音楽』というマンガとアニメ作品だと思います。

バンド経験者、音楽好きは是非観てもらいたいです。本当に傑作。


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