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映画『ビルド・ア・ガール』感想 間違ってはいないけど、物足りない


 ちょっと展開が平凡過ぎたかなというところ。映画『ビルド・ア・ガール』感想です。

 1993年のイギリスで暮らすジョアンナ・モリガン(ビーニー・フェルドスタイン)は、溢れんばかりの妄想力と文才を持て余す高校生。何かのきっかけを掴み、校内でイケてない層の身である事から脱却したいと考えていた。そんなジョアンナに、音楽好きの兄クリッシー(ローリー・キナストン)が、大手音楽情報誌「D&ME」のライター募集の記事を教える。ジョアンナは持ち前の行動力で、「D&ME」のライター見習いの座をゲット。髪を赤く染め、奇抜なファッションに身を包んだジョアンナは、「ドリー・ワイルド」というペンネームで、音楽ライターとしての才能を開花させる。
 人気アーティストであるジョン・カイト(アルフィー・アレン)へのインタビュー取材で、ジョアンナはジョンに心を奪われ、想いの丈を込めた記事を執筆。だが、編集部からはボツをくらい、ライターとしての信用を失ってしまう。再起を賭けて、ジョアンナはアーティストに対して過激な毒舌を浴びせるスタイルに変更。「ドリー・ワイルド」は辛口批評家として一躍時の人になるが、ジョアンナは次第に自分を見失っていく…という物語。

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 イギリスのジャーナリスト、キャトリン・モランの自伝的小説を原作にして、コーキー・ギェドロイツが初の長編監督作品として製作した映画。
 主演がビーニー・フェルドスタインということで、同じく主演した昨年の『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』(大傑作!!!)と似た雰囲気を感じて、あの水準をクリアするのは難しいだろうなと思いつつも、チェックとして観ておきました。

 時代設定が90年代の音楽業界が舞台ということで、ちょうど自分が洋楽を聴き始めた時代でもあり、懐かしさも感じました。イギリスの音楽ジャーナリストの事は、当時はよくわかりませんでしたが、今作のように男性社会が強い雰囲気は確かにあったような気がします。日本の音楽雑誌「rockin’on」を読んでいた記憶では、文系だけどちょっと不良ぶって悪趣味・悪辣な言葉を使うハリボテのようなマッチョイズムがあったように思い出されました(思い返せば、小山田圭吾事件の発端となったインタビューもこの空気に近いかもしれません)。

 そんな男性社会の中で、若くて陰キャの女子高生が自分の道を切り拓いていく痛快作を狙ったんだと思うんですけど、残念ながらあんまり痛快に感じられませんでした。
 モテないキャラからキャラ変して、調子にのって痛い思いをするという展開は、よくある物語にしか思えなかったんですよね。その主人公を男性から女性に変えただけに見えてしまいました。確かに女性主人公でビッチに変貌するというのは、一種の女性解放なのかもしれませんが、痛い思いをするという形で、結局否定してしまっているわけですよね。

 ジョアンナの家族描写はすごく素敵だったと思います。父親のパット(パディ・コンシダイン)も、産後鬱の母親アンジー(サラ・ソルマーニ)も、そして兄のクリッシーも、ジョアンナへの受け入れ方が、家族とはこうありたいという見本のような良さでした。
 だからこそ、ジョアンナが家族に当たってしまうのが、印象悪く見えてしまうんですよね(よく考えると、確かに父親の行為はそこそこクズなんですけど)。

 音楽シーンの描写ですが、これも今一つピンとこなかったんですよね。マニック・ストリート・プリーチャーズ、プライマル・スクリームなどの有名曲もあったんですけど、全般的に90年代の音楽の雰囲気はあまり感じられませんでした。自分の聴いていたシーンとは別なのかもしれませんが、それにしても、もう少しバシッと場面にハマるような音楽の使い方がなかったのかなと感じてしまいました。
 アルフィー・アレンが演じるジョン・カイトは、ジョアンナの家族と同じくらい、物凄く人間として素敵なミュージシャンでしたが、逆に90年代のアーティストっぽくないんですよね。そのしっかりとした倫理観は現代でも希少だと思います。むしろ『ブックスマート』の理想郷的な世界に近い価値観だと思うんですけど、今作だとむしろリアリティを失ってしまっているのは、ちょっと面白い結果ですね。

 調子にのって、自分を見失ったことを反省し、更生するという展開はベタでもいいんですけど、その後もサクサクッと上手く行ってしまうので、重要なメッセージである「人生は自分で切り拓く」というのが今一つ伝わりにくい気がしました。
 まあそれも、色々と上手くいかない人生経験をしている人間から観た視点だからかもしれないので、まだ未来の可能性が大きい10代には充分実感できるメッセージになっているのかもしれません。

 悪くはない作品なんですけど、やはり『ブックスマート』の印象を引きずってしまい、このような感想を抱く結果となりました。


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