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映画『ベイビーわるきゅーれ』感想 倫理観無視の裏社会おしごと映画

 なかなかに掘り出し物の秀作でした。映画『ベイビーわるきゅーれ』感想です。

 裏社会組織に所属する女子高校生の杉本ちさと(髙石あかり)と、深川まひろ(伊澤彩織)。バディを組んでいる2人は、凄腕の殺し屋として活動していた。高校を卒業するタイミングで、社会人としての生活を学ぶために、殺しだけでなく普通の仕事をして自立することを命じられる。組織の寮を追い出され、イヤイヤながら2人で共同生活を始めるが、暗殺以外の2人の生活力は皆無に等しく、バイトをクビになり、面接をしては落ち続ける日々を送っていた。
 そんな中でも、殺しの依頼はきっちりとこなすちさととまひろだったが、ある組員を殺したことで、そのヤクザ一家から目を付けられることとなる…という物語。

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 阪元裕吾監督によるアクション映画。全くのノーマークでしたが、ツイッターで割と絶賛されているのを見かけて、何となく気になりだし、都内の上映が一館のみというレア感が逆に観なければ、となって観に行きました。

 物語自体は、漫画的な感じの作品ですよね。殺し屋のトボけた日常というコンセプト自体が、漫画・実写映画の『ファブル』に近いものだと思います。
 ただ、あちらは「殺さない殺し屋」というのをウリにして、誰でも観られる作品の位置にありますが、今作は倫理的にはアウトというか、ガンガンに無視する方向で、主人公の少女2人がバシバシ殺人をしていくのが、大きな違いですね。

 直接的ではなくとも、結構エグイ暴力描写が出てきますが、この主人公2人のキャラが良くて、意外とすんなりと受け入れられるんですよね。髙石あかりさんは、映画主演は初だそうですが、アイドル的な顔を使っての煽る演技が超絶に巧くて、ホントにちょっとムカつくんですよね。
 伊澤彩織さんも、本来はスタントウーマンとのことですが、コミュ障で不器用というまひろの雰囲気がとてもハマる演技だと思います。

 この2人の日常会話が、マジで中身なくて10代の女の子同士の会話って感じがリアルなんですよね。お互いの受け答えはどうでもよくて、自分が言いたいことを言えばOKな感じがよく出ています。
 このダラダラした日常空気を溜めにしてからの、超絶ハイスピードアクションが素晴らしいんですよね。格闘シーンは、『ファブル』『るろ剣』みたいな大作アクションにも劣らない、結構なハイレベルのものだと思います。

 悪役のヤクザ一家も、良いキャラしてんですよね。ちさとと同族嫌悪な雰囲気の浜岡ひまり(秋谷百音)も煽りがムカつく良い演技だし、親父の浜岡一平(本宮泰風)と兄のかずき(うえきやサトシ)のやり取りも楽しいですね。かずきは作中で唯一のツッコミ役だったので、もう少し使ってあげても良い気がしました。

 殺人シーンはバンバン出てくるわけですけど、それも社会の一部にしてしまっているところが、作品そのものの大がかりなボケなんですよね。死体清掃の業者に、頭を撃たないでとクレームを入れられて謝るシーンなんかは、「どの仕事も大変なんだなぁ」と呑気な感想を抱いてしまい、こちらの倫理観がブッ壊れていくのを楽しむことが出来ます。

 現実世界、特にネットでは、品行方正の皮を被った正義や倫理観が跋扈しているので、これくらいブッ飛んだ価値観の世界が、今の自分にちょうど良かったんですよね。ちさとが、ツイッターで冷笑している人間を批判している台詞なんか、共感の嵐でしたよ。

 ところどころ、台詞が聞き取りづらいとか、もうちょい主人公2人のアクションでのコンビ感が観たいとか、穴はあるんですけどシンプルな面白さでそれをカバー出来ていると思うんですよね。

とにかくキャラクター造詣が本当に上手い作品ですね。これだけのキャラ作れれば、結構何本でも物語が出来そうな気がします。
 続編映画も良いですが、深夜ドラマやネット配信で、連続シリーズなんか観てみたい気もしますね。


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