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2022年映画感想

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2022年7月の記事一覧

映画『ベイビー・ブローカー』感想 脚本の穴を遥かに上回る感動的なメッセージ

 クライマックスの1シーンだけでも、山ほどのお釣りがくる作品。映画『ベイビー・ブローカー』感想です。  日本を代表する映画監督の1人である是枝裕和監督による最新作。『万引き家族』の世界的な成功から、前作『真実』でのフランス撮影を経て、今作では韓国撮影と、活躍を海外に広げています。今回は映画祭で挨拶したソン・ガンホと話した際に、いずれ出演を、と話していたのが、そのまま企画となっていったそうです。  作品のテーマは、『万引き家族』と同じく、既存のものではない新しい形の家族を

映画『神は見返りを求める』感想 すぐ近くに存在する不快さを描く快作

 思いの外、重たい胸糞恋愛コメディでした。映画『神は見返りを求める』感想です。  2021年の『BLUE/ブルー』『空白』も記憶に新しい𠮷田恵輔監督による、オリジナル脚本作品。特に昨年の『空白』は、超ド級の重たさを持つ人間ドラマの傑作だったんですけど、今作はそれと比較すると、ちょっと軽そうなブラック恋愛ものかなという感覚で観てきました。  その結果、今作も違う方向での重たさを持った人間ドラマであり、ある意味では『空白』以上に観ていてしんどくなる作品だったので、やはり一筋縄

映画『PLAN 75』感想 最も現実に近いディストピア

 真っ暗な未来が、すぐそこまで近づいていることを感じさせます。それでも、負けないように抗いたい。 映画『PLAN 75』感想です。  早川千絵監督が参加したオムニバス映画『十年 Ten Years Japan』の一編として発表された短編作を、早川監督自らが長編映画としてリメイクした作品。カンヌ国際映画祭で「ある視点」部門に出品され、カメラドールのスペシャルメンションに選ばれるなど、高評価を得ているそうです。  物語設定の第一印象は、藤子・F・不二雄短編集のディストピアS

アニメ映画『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』感想 令和に蘇った昭和アニメのメッセージ

 『ガンダム』という作品が一般常識として知られているという前提で作られている作品。そう考えると『ガンダム』は伊達じゃないと感じます。アニメ映画『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』感想です。  『機動戦士ガンダム』のTV版第15話として放送された「ククルス・ドアンの島」をベースに長編アニメ映画としてリメイクした作品。初代ガンダムのキャラクター・デザインも手掛け、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』で監督も務めた漫画家の安彦良和さんが、再び監督を務めています。

映画『ニューオーダー』感想 現実の恐怖を描いて鳴らす警鐘

 祝祭感あるマンチェスターのレジェンドバンドとは、一切関係ありません。映画『ニューオーダー』感想です。  『母という名の女』『或る終焉』などで知られるメキシコの映画監督ミシェル・フランコによる作品。2020年のヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を獲得したそうです。あまりにも救いがないという評判ばかりが聞こえてきたので、観ておきたくなり、思い切って勢いで行ってみました。「救いが無い」という前評判だけでも、充分ネタバレになっている状態で観たわけですが、それでもあまり関係なく、シ