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2022年映画感想

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2022年の映画作品振り返り

 とうに新年が明けてはおりますが、恒例として2022年の映画作品振り返りをしておきたいと思います。昨年は、50本の映画作品に触れることが出来て、全て感想書きをすることが出来ました。何のためにやっているか、自分でもよくわかりませんが、読み返すと感動が蘇ったり、新たな発見に気付いたりすることもあるので、自分のためにはなっているのかとも思います。  2022年の各作品はこちらから↓  前年2021年の映画振り返りはこちらから↓  読み返してみて、印象的だった5作品を改めて

アニメ映画『THE FRIST SLAM DUNK』感想 大胆なスピード感と繊細な人間心理を描いた新しい名作

 2022年最後の映画感想にして、度肝を抜かれた大傑作。アニメ映画『THE FRIST SLAM DUNK』感想です。  もう説明を入れるまでもないでしょう。「少年ジャンプ」を代表する名作漫画『スラムダンク』を、作者である漫画家・井上雄彦さんが原作者としてだけでなく、脚本・監督として参加し、長編アニメ映画として製作された作品。公開が決定してから、あらすじなどの情報は一切発表しないプロモーションが賛否を呼んで話題となりました。しかし、公開直後からは絶賛の嵐となり、原作のアニメ

映画『グリーン・ナイト』感想 世界観を再現するハイレベルな美術

 理解し切れていないところも多いですが、作り込みは素晴らしいものでした。映画『グリーン・ナイト』感想です。  イングランドに伝わる作者不詳の物語『ガウェイン卿と緑の騎士』を原案として、『ア・ゴースト・ストーリー』で知られるデヴィッド・ロウリーが脚本と監督を務めた作品。『ア・ゴースト・ストーリー』の詩的でアンビエント的な映像美は好きでしたし、配給会社はA24ということで、センス間違いなしと感じて観てまいりました。  まず、中世ヨーロッパを再現した美術セットが凄いですね。詳

映画『ある男』感想 拭いきれない過去が浮き彫りにする社会の悪意

 物語の面白さ、社会派作品、芸術性を複合させた傑作。映画『ある男』感想です。  作家・平野啓一郎さんの同名小説を原作にして、『蜜蜂と遠雷』『Arc/アーク』で知られる石川慶監督が実写化した作品。石川監督はまたもや小説作品の映画化作品ですね。  あらすじから見ると、いわゆるサスペンス的な物語になってはいますが、事件の真相だけを追う物語とは違い、そこに至るまでの登場人物の心理描写をドラマに仕立てたものになっています。原作の平野啓一郎さんによる文学性の部分を、石川監督が完全に理

映画『宮松と山下』感想 切なく湿った感情を魅せる、乾いた演出

 過去のしがらみをどうするかというテーマが、意図せず結果として見事にシンクロ。映画『宮松と山下』感想です。  ドラマの演出を手掛ける関友太郎さん、NHKの人気番組『ピタゴラスイッチ』の企画・監修を務める佐藤雅彦さん、メディアデザインの活動をしている平瀬謙太朗さんの3名から成る監督集団「5月」による初長編映画作品。  主演は、映画にドラマに歌舞伎役者と、活躍の場を広げていた香川照之さんなんですが、作品公開も告知し始めた時期に、過去の酒の席での振る舞いを報じられて、世間的な評価

映画『窓辺にて』感想 よそよそしさと距離感は、優しさの表れ

 人間の愚かさ・滑稽さ・哀しさをひっくるめて、美しさとして表現している傑作。映画『窓辺にて』感想です。  『愛がなんだ』『街の上で』などで知られる今泉力哉監督の最新作。恋愛映画でありつつ、恋愛に上手に向き合うことの出来ない人々を滑稽に描くのが特徴ですが、今作もそのスタンダードな今泉作品を、より深化させた作品という印象でした。  今泉監督の作品は、毎回キャスティングが絶妙だと思うんですけど、今作の主人公である茂巳を演じる稲垣吾郎さんも、ドハマりしている演技ですね。主体性が

映画『君だけが知らない』感想 異様に伏線回収巧みなメロドラマサスペンス

 風呂敷の畳み方だけなら、今年イチ。映画『君だけが知らない』感想です。  ソ・ユミンが、監督と脚本を務め、映画デビューとなる作品。たまたま映画館で観た予告編が、見事な出来映えだったので、観てみようとなりました。ありきたりな恋愛メロドラマと思わせる導入から、サスペンスへと転換するのが予告で見事に表現されているんですよね。かなり巧い編集の仕方をしていると思います。  ネタバレ厳禁という感じの物語なので、語ることが難しいのですが、脚本の妙が詰まった映画ですね。韓国映画作品は隙

映画『犯罪都市 THE ROUNDUP』 ポップな刑事ものと、エグいバイオレンスの見事な両立

 デカい拳が犯罪者の顔にめり込む度に、ガッツポーズしたくなる痛快娯楽作品。映画『犯罪都市 THE ROUNDUP』感想です。  2017年公開の映画『犯罪都市』のシリーズ2作目として製作された作品で、主演は当然前作から引き続き、我らがマブリーこと、マ・ドンソクが務めております。監督は前作のカン・ユンソンから、助監督を務めていたイ・サンヨンにバトンタッチしています。  前作の後、『悪人伝』やハリウッドデビューとなった『エターナルズ』など、ますます活躍を広げたマ・ドンソクで

映画『パラレル・マザーズ』感想 男性が消えた世界で生き延びる女性たち

 予想もしない結末に着地しましたが、納得感もありました。映画『パラレル・マザーズ』感想です。  『オール・アバウト・マイ・マザー』などで知られるスペインの巨匠ペドロ・アルモドバル監督の最新作。主演のペネロペ・クルスは今作でベネチア国際映画祭の最優秀女優賞、アカデミー賞でも主演女優賞にノミネートされるなど、高評価を得ています。  新生児の取り違えという題材は、是枝裕和監督の『そして父になる』が思い起こされます。観る前は、『そして母になる』バージョンかな、などと単純に考え

映画『RRR』感想 面白さメガ盛り定食

 超絶ハイカロリーだけど、味は確か。映画『RRR』感想です。  『バーフバリ』2部作で、インド映画が世界的なエンタメ水準にあることを知らしめたS.S.ラージャマウリ監督による最新映画。2人の主人公は、実在のインド独立運動指導者であるコムラム・ビームとアッルーリ・シータラーマ・ラージュをモデルにしているそうです。けれども、この2人は同時代の英雄ながら実際に出会った記録は無く、物語はこの2人がもし出会っていたら、という着想から生まれた完全なフィクションになっています。  『

映画『千夜、一夜』感想 ひとりの女性の人生で描く様々な閉塞感

 田中裕子さん、演技の巧さがいよいよ狂気じみてきました。映画『千夜、一夜』感想です。  ドキュメンタリー作品出身で『家路』などの劇映画でも知られている久保田直監督による映画作品。年間8万人に上る「失踪者リスト」に着想を得て制作された物語だそうです。主演の田中裕子さんは、ドラマや映画でも、とにかく存在感ある演技で、個人的には尊敬している女優さんの1人でもあるため、観なければならない作品でした。  彼の国の拉致問題、地方の閉塞感、老老介護など、社会問題が多く描かれてはいま

映画『あの娘は知らない』感想 色使いの巧みさで描く喪失感

 哀しみとの距離感が心地好い作品。映画『あの娘は知らない』感想です。  学生時代に製作した『溶ける』で、史上最年少のカンヌ映画祭出品を果たし、ドラマやPVなども手掛ける井樫彩監督による映画作品。朝ドラ『なつぞら』、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』に出演して活躍を広げる福地桃子さん、印象的な脇役の多い岡山天音さんという、派手さではなく実力のある主演陣が気になり、上映終了間近のタイミングで観ておきました。  井樫監督作品は初めて観たのですが、映像の作り方にかなり作家性が強く出て

映画『マイ・ブロークン・マリコ』感想 遺された人だけに与えられた哀しみと権利

 原作を読んだ時の衝撃を、そのまま再現出来た大成功作。 映画『マイ・ブロークン・マリコ』感想です。  漫画家・平庫ワカの初連載作品『マイ・ブロークン・マリコ』を原作にして、『ふがいない僕は空を見た』『浜の朝日の嘘つきどもと』などで知られるタナダユキ監督が実写化した作品。原作漫画は個人的には2020年に読んだ漫画作品でダントツ1位だったので、かなり期待していた映画化作品です。  結果として期待に応えてくれる素晴らしい実写化作品でした。物語は知っているはずなのに、冒頭から終盤ま

映画『秘密の森の、その向こう』 さよならは、再び逢うための言葉

 シンプルな物語の中に、複雑な映像表現が満載の傑作。映画『秘密の森の、その向こう』感想です。  『燃ゆる女の肖像』で世界的に絶賛されたセリーヌ・シアマ監督による最新映画作品。『燃ゆる女の肖像』は美術センス、語り過ぎない脚本、映像の比喩など、映画表現でここまで情報を詰められるのかと驚かされた傑作だったので、今作も観ない選択はありませんでした。  『燃ゆる女の肖像』は台詞で語るような作品ではなかったのですが、今作でもやはり台詞は極力抑えられていて、観客に想像を巡らせる、行間