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hannocというパティスリーのこと

念願叶ってようやく来訪。

結論から言うと、そこまで人気を博す理由がわからなかった。
外装も店内も黒を基調にしてありスタイリッシュなので、インスタでは映えるだろう。
それを証明するかのように、店内は若い女性客ばかりだった。
オープンキッチンになっており、パティシエが作業をしている様を見ることができるという点もおもしろい。
なんだかSNS界隈では、“ここでケーキを食べる私”がステータスになっているようにすら感じられる。


テイクアウトでいいや感

本当なら少し待ってでも店内で食べようと思っていたのだが、テイクアウトで十分だと判断した。
お客さんが食べているところを観察すると、売っているケーキをお皿にのせただけだったから。

例えば、私が好きな京都のgrains de vanilleは、サロンで食べること推奨の「しぼりたてモンブラン」を出している。注文が入ってから作り、テイクアウトでも30分以内に食べてください、とのこと。

かの有名なToshi Yoroizukaは、スイーツとは思えない値段ではあるが、アシェットデセールに力を入れており、お店でいただくからこその醍醐味がある。

それがなかったので、これなら家でコーヒーを淹れてゆっくりいただくほうがいいかな、と。彼を待たせるのも申し訳なかったし。

そして実際にhannoc店内に入りショーケースを見た印象は「地味だな」だった。なにせ色味が茶色や白ばかりなのだ。
パティスリー特有の華やかさと、それに伴うワクワク感があまりない。
春ならいちごがメインに来てもおかしくないのだろうが、使っているフルーツは香りづけのレモンやライムのみという感じ。
「若きパティスリーが複数在籍し、各々のスペシャリテを出す」がコンセプトのようだが、店舗として全体を見たときのバランスは誰も考えていないのだろうか。
例えば、私が訪れた際はショーケース内に生菓子6種・タルト3種ほどが並んでいた。
そのうちの生菓子一つはヘーゼルナッツとキャラメル、タルトにもヘーゼルナッツがある。
他のパティスリーより種類が少ないくらいなのに、まさかのヘーゼルナッツかぶり。
いやいや、そこは変化をつけなさいよ。ナッツだけでも膨大な種類があるというのに。好きだし選択肢がないからどっちもヘーゼルナッツ選んだけどさ。
“自分が作りたいものを作る”だけでは、パティスリーは成立しない。
私の期待値が高すぎたのか、ちょっと残念だった。まぁ買って帰ったんだけど。


人より食べてきたケーキの数が多いせいか、見た目で完成度が想像できるようになってしまった。食べる前からなんとなくわかってしまう。

見た目は確かにキャッチーではある。
モコモコした雲みたいでかわいかったり、ヘーゼルナッツがごろんと乗っていたり。
でもなんていうか…一流パティシエの作るケーキを一生懸命真似しました、みたいな感じがとてもする。それっぽくキャッチーに仕立て上げている印象。

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食べた感想

おいしい。でも秀でたところがなく、まぁそうだろうな、という味。
なんというか単調なのだ。最初に食べたときの味だけがずっと続く。ヘーゼルナッツ+コーヒー+キャラメルのケーキとあったが、コーヒーの苦みが強く、ナッツとキャラメルが負けている。そしてずっとコーヒー味が口の中で続く。

なにより残念なのは食感。ババロアみたいなガトーは、終始プルンとした食感のみ。
ヘーゼルナッツのケーキも終始フワフワが続いていた。
食べる楽しみが弱い。味も食感も単調なので、半分くらい食べると飽きてくる。
なんだか全体的にぼやっとしているのだ。

私が日本一おいしいと思うParis S'éveilleのケーキを思い出す。
金子シェフの作るケーキは、一口で感じられる変化が多彩で、まったく食べ飽きない。
ザクっとしたかと思えば、パリッ、カリッ、シュワッ、フワッと変わっていく。味わいも最初にフルーツの酸味が来て、嚙むごとにナッツの香ばしさ、クリームのなめらかな甘さ、最後にリキュールの香りが鼻から抜ける。
小さなケーキに信じられないほどの手間をかけていることがわかる(実際、金子シェフのレシピ本を購入したが、気が遠くなるような工程と材料の多さだった)。そしてその一つひとつに一切無駄がないよう、計算し尽くされている。
幾重にも重ねられた層を貫くようにナイフを入れ、上から下まで同じ分量になるよう一口大にカットする。口に運ぶや否や、さまざまな味わい、香り、食感が無限に広がる。同時にえもいわれぬ幸福感に包まれる。
五感をフルに働かせて味わうことができ、むしろ700円でも安いくらいだと思わせるほど。

…うぅ、書いていたら無性に食べたくなってきた。

ホームページもおしゃれだし、コンセプトもおもしろい。
ただ、お店が掲げる「パティシエを、もっとクリエイティブに。hannoc(ハノック)はそんな想いから生まれたお菓子屋さんです。パティシエたちが、自分の感性をありのままに表現できたら。」というコンセプトが悪い方へ転がっている感じがする。
クリエイティブであろうとするあまり、地に足がついていない感じというか。本物のクリエイターはそんなことわざわざ言葉にしない。“ありのまま”でいいのは、その足元にすさまじいほどの土台ができあがっている人だけだ。

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学んだこと

パティシエの紹介がレジ横に置かれていたが、みなさん90年代後半の生まれでなんせ若い。
製菓学校の卒業生ということから、もちろん技術は備えていると思うので、あとは経験と挑戦心をもってもっと真摯に土台作りから始めてほしい。

あと、インスタで人気とか食べログで評価が高いとか、もちろん指標の一つにはなるけれど、盲目的に信じてはいけないと改めて教訓になった。

もっとも大切なのは自分自身の直観と経験。SNSに踊らされて、キラキラおしゃれ!みたいなのに騙されているようでは修業が足りないなぁ。

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