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星の数ほど

とてつもない低気圧が頭をうず巻き貝みたいに捻じ上げている朝だった。今日は一日中たくさん働くいわゆる「イベント日」で、思っていたとおり帰るころには足がパンパンになっていて、夜ご飯を食べているあいだもお風呂に使っているあいだも「もう動けない」ということを考えてばかりいた。

ようやっとお風呂から出たわたしは笑っちゃうくらい今日の日とは正反対の曲を聴いて、でも好きだなあ、としみじみ思いながら、脱ぎかけの服はそのままに部屋のガラス棚をながめる。すてきな表紙の絵本、漫画に入っていた凛々しい女の子のハガキ、誰かのお土産にもらった綺麗な石、学生の時の教本やピアノの楽譜。

「こんなに晴れた日に僕らは 寂しくなるのをやめたのだ」窓ガラスが振動するほど強い風が吹く夜に、全然ふさわしくない曲かもしれないけれど、それでも不思議と聴いていられるし、寂しくないな、とぼんやり気づく。生活はこうやって何かを外側に発信してさえいれば、時にあたたかい言葉をかけてくれる人がいるし、書店にいけば読みたい本が星の数ほどある。部屋のガラス棚にはまた新しい何かが飾られていくのだろうし、なにより、どれだけ疲れた夜にだって、私の「好き」は、消えない。


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