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AFTER BOOK CLUB の活動は面白い 12月10日のテーマ「本と〇〇」のレポート(後編)

執筆者の M です。前編に引き続き、12月10日のテーマ「本と〇〇」をレポートします。

日本の中にある異世界について

次に O さんが話したことは、「本と旅」です。よく電車などの移動中に本を読むことが多いらしく、旅行中に次どこに行こうかと考えながら読むとのことです。本を読むことは想像世界への旅でもあるので、それを実際の旅の中で行うというのは面白い読み方だと思いました。双方の旅は、どのように互いに働きかけるのでしょうか。今回、紹介されたのは、「移民の宴」という高野秀行の本です。

移民の宴 日本に移り住んだ外国人の不思議な食生活 (講談社文庫) | 高野 秀行 

これは日本に移り住んだ外国人の不思議な食生活について書かれた本であり、食を通してその国の文化に触れるといった内容のようです。昨今、円安やインフレの影響で、なかなか海外旅行は難しくなっていますが、日本にいながら外国の文化に触れることができる施設を紹介しているので、俄然興味が湧きました。高野秀行は世界の僻地などをルポルタージュするなど活動的な冒険家というイメージが強いですが、日本国内も開拓していたのですね。 本に書かれた一例として、インドの宗教施設では食事に直接お金を払うのではなく、神様に饗された食事をお布施のような形で支払い、それを頂くということを O さんは紹介されました。これはイスラムのハラル処理された食事に近い感覚だなと思いました。また、正教会は水道橋にあるような玉ねぎ型の屋根の教会をイメージしがちですが、正教会はロシアや ウクライナなど国ごとに組織されていて、それぞれ国によって教会の形も違うとのこと。ちなみに水道橋の正教会はロシアのものではなく、日本の独自のものだそうです。

オープン・ダイアローグの可能性

次に A さんが話したことは、「本と正月」です。盆と正月からつけたらしく、オヤジギャグ かい、と思わず突っ込みを入れました。一年の計は元旦にあり、2024年の最初に読みたい本ということで紹介されたのが、「トム・アンデルセン 会話哲学の軌跡」です。A さん は、盆から正月にかけて読むのでしょうか。

トム・アンデルセン 会話哲学の軌跡ーリフレクティング・チームからリフ レクティング・プロセスへ | 矢原 隆行, トム・アンデルセン, 

トム・アンデルセンは精神科医であり、オープン・ダイアローグという手法を使って精神疾患などの人の治療に当たっているとのことです。 オープン・ダイアローグが一般的な対話と違うのは、アドバイスや説得、議論はしない。ファシテーターがいる。個人でなくチームで行う。リフレクティングを行う。などであり、とにかく話を聞くことに徹するらしい。 実際、A さんは最近ボランティアとして、こうした活動に参加していて、患者の方の様子が オープン・ダイアローグの前と後では、かなり変わっていくのを目撃したらしいです。 人は話を聞いてもらうだけで癒されるのですね。このオープン・ダイアローグは、精神疾患の人に限らず、様々な人に対して有効になりうる可能性を秘めていることを A さんの話から感じました。 オープン・ダイアローグについて少し調べてみたので、次の記事を参照下さい。

本が先か、映画が先か

次に E さんが話したことは、「本と映画」です。そこで紹介されたのは、「オーギー・レンのクリスマス・ストーリー」というポール・オースターの本です。E さんはポール・オース ターの小説が好きとのことであり、12月なのでこの本を選んだのかなとも思いました。

オーギー・レンのクリスマス・ストーリー | ポール オースター, 柴田 元幸, タダ ジュン

新聞社にクリスマス・ストーリーの執筆を依頼された作家のポール。ネタに困った彼が、タバコ屋で働いているオーギー・レンにその話をしてみると、オーギーはあるクリスマスの体験を語りはじめる。というような話の始まりなのですが、この本が原作で「スモーク」という映画が作られたとのこと。映画には小説の中の一部の話が使われているらしいです。

調べてみると、映画の脚本もポール・オースターなのですね。 小説と映画、どちらが良かったですか、と E さんに尋ねたら、映画との答えでした。その 理由を聞いたら、映画の「スモーク」を先に見ていたから、そのイメージが残っている状態で小説を読んで物足りなさを感じたらしいです。 私は、この小説も映画も未見なので、どちらが良いのか分からないのですが、個人的な意見としては小説と映画は同じストーリーでも全く別物と思っています。なぜなら、それぞれが得意とする表現方法は違っているので、小説から映画へそのまま翻訳することは、ほぼ不可能だからです。 でも、どちらを先に知ったかによって、影響を受けることもあるのかもしれません。 この問題は深入りすると沼にはまりそうです。皆で議論すると結構盛り上がるような気がします。私は、まずポール・オースターの小説のほうから読んでみたいと思います。

本に別の要素を挿入すること

最後に私(M)が紹介したのは「本と栞(しおり)」です 栞は一般的にはどのページまで読んだのかを区切るために使われていますが、今回、紹介したのは、そのような一般的な使い方の栞ではなく、本に別の要素を敢えて挿入するような栞です。読書しながらコーヒーを飲んだり、音楽を聴いたり、好きな場所で読書することと同じように、別の要素が混ざることによって、本に何かの作用が生まれるのではないかと考えて、写真のとおり3点作ってみました。

(M が作った栞の写真)

道端でたまたま使用済みの切符を拾ったので、それに銀河鉄道の夜のイメージに合わせてコラージュした夢の切符の栞。 バックパッカーの旅人に寝袋の地図を二重に重ねて作った栞。「想像する展覧会」という素敵な言葉を見つけたので、本を開くこと自体が展覧会になるのではないかと考えて作った栞。こんな感じで、必ずしも本の内容やサイズに合わせて作ったわけではないので、本によっては栞とのバランスが悪くなりますが、本来的な実用性にあまり重点を置かず、アイデアだけで作っています。 この栞作りのポイントは、何もない状態から無理に栞を作ろうとしないことです。日常生活の中で見つけた言葉や写真などを切り抜いて素材としてストックしておき、何かの折に、この組み合わせだったら面白いと閃いたときに、それらをコラージュしてアートワーク的に栞として作ります。なので、誰でもアイデア一つで簡単に作れるものです。皆さんも一度、 栞作りを試してみてはいかがでしょうか。作ったものを並べて眺めるのも楽しいですよ。

終わりに

今回の ABC の参加者は年末ということもあり、今までで一番少ない6名でした。通常はグループ分けして話をして、後に各グループの代表がその一部をまとめて発表するという流れなのですが、今回はグループ分けせずに、一人ひとり話をしっかり聞くことができました。 なので、参加者が少なくても、いつもと違う面白さがありました。 結果的に、それぞれの紹介者のレポートは、いつもより密度が濃く、長めになっています。 テーマが「本と〇〇」ということだったためか、本の読み方にふれるような話も多かったようです。 ABC は何かが生れる場です。このレポートを読んで頂いた方に ABC の活動の面白さ、その雰囲気を伝えたく、前後2回に分けてレポートを書かせて頂きました。

(本稿執筆者: 今のところ皆勤賞の M)

AFTER BOOK CLUBとは

神奈川県立図書館主催の「After5ゼミ」第1期生がはじめたブッククラブ。
本好きの人もそうでない人も、楽しく月1回集まって読書会をしています。

このnoteでは、読書会の記録やイベント情報、また本や横浜にまつわるお話を公開しています。