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AFTER BOOK CLUB の活動は面白い 12月10日のテーマ「本と〇〇」のレポート(前編)

今のところ ABC に毎回、参加している Mです。今回初めて NOTE に記事を載せるので、この機会に ABC の活動の面白さ、その魅力についても語ってみたいと思います。

本とは、読書とは何か

読書というと皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。面白い、楽しい、ためになる等、色々と理由があるかと思いますが、私は、読書とは日常の世界から一時的に離れて本の中の世界へ時空を超えた旅をするような体験であり、ある種の異化作用をもたらす力があると考え ています。つまり日常では体験できないような世界を疑似体験することによって、狭い自分の世界以外にも世界があるということを知り、様々な事を相対化して考えたり、想像したり することができるようになります。世の中は、答えが一つということはないですよね。そうしたとき、様々な道しるべとして本が友達のように寄り添ってくれることがあります。

ABC の活動の面白さについて

上記に書いたとおり本そのものに面白さ、魅力がありますが、ABC では更に別の魅力が加わるようです。ABC では、それぞれの参加者が毎回のテーマに沿ってお勧めの本を紹介していて、それぞれの方が独自の視点でセレクションして、様々なかたちで本へのアプローチを行っています。本というのは色々な読み方が可能であり、ある意味では、選んだ方の編集行為がそこに働いているともいえます。そうか、そんな読み方があったのか、と気づかされることもあります。ということで、本を紹介するという行為は、単に本の情報を伝える以上のことが含まれています。 また、紹介者の言葉、声によって、ある種の異化作用が場に働いているようにも感じられます。紹介者は本の世界の水先案内人となり、その世界について語るだけではなく、紹介者の 考え方やバックグランドが図らずとも編集行為的に本の世界に織り込まれるかたちで別の世界が現れます。そうした中で、初めはごく普通の人のように見えていた紹介者が、実はもっと凄い人なのではないかと思えてきたりして、その方の多面的な姿を垣間見るようなこともありました。
寺山修司は「劇場があるところに劇があるのではなく、劇があるところに劇場がある」と言いました。つまり、大文字で語られるような美術館や劇場だけでなく、その外側にも、日常の延長の中にもアートや劇があるということです。そうした観点から ABC は劇のような場であるとも言えます。もちろん皆は何かを演じているわけではなく、自らの読書体験を語っているだけなのですが、それぞれの方の個性やお互いの対話によって、自然に思いがけない何かが生れている場のように感じられるのです。

これも劇かもしれない

劇のような体験の一つとして、12月10日の ABC で、横浜裁判所で傍聴を初めて体験した話をしました。事件の当事者や関係者ではない立場での傍聴ですが、予約なしで当日の裁判を見ることができます。これは裁判が密室ではなく公正に行われように担保するために 一般市民にも公開されている憲法上保障された制度ですが、色々考えさせられることがありました。誰でも身近なこととして裁判の傍聴はできますので、世の中の仕組みをより深く理解するために一度は体験してみてもいいかもしれません。

12月10日の ABC のテーマ「本と〇〇」のレポート

続いて今回のテーマである「本と〇〇」のレポートです。◯◯の部分には、本とつなげたいモノゴトを自由に当てはめて考えてください、とのことだったので、それぞれの方が〇〇について考えました。では、発表順にレポートします。

本は読むだけのものではない

最初にマスターが話したことは、「本と手しごと」です。原料となる紙作りから製本に至るまで、すべて手仕事で本作りを行っているインドのタラブックスという出版社が出してい る「夜の木」という希少本を紹介されました。

夜の木 | バッジュ・シャーム, ドゥルガー・バーイー, ラーム・シン・ウルヴェーティ, 青 木恵都 

梱包されて郵送されてきてからまだ開けていない状態のものをマスターが箱から出して初めて皆さんにお披露目するという儀式めいたことをとおして、その本を見させてもらう貴重な場でした。版画のようなリソグラフ刷りで限定のエディション番号が振られている美しい本であり、簡単には入手できないもののようです。以前から欲しいと思っていたけれど、今回、思い切って買ってみたとのこと。絵と言葉のアートワークを紙という媒体を使って丁寧に作られていて、その心地よい手触りや匂いは本を超えた何物かを感じさせるものであり、マスターが手仕事でカバンを作っていることに通じるような本への愛を感じました。本は一回切り読むだけではなく、何度も読んだり、手元に置いて手触りを確認したりすることも楽しみの一つなので、多少高くても、こういう本の在り方も良いなと思いました。

本とは何か

次にSさんが紹介したのは、「偶然の装丁家」という矢萩多聞の本です。

偶然の装丁家 (就職しないで生きるには) | 矢萩 多聞

毎回、Sさんが紹介する本は、比較的知られていないような本が多くて、へえ、今回は、そこから攻めてきたか、というような感じで独特の世界感に触れるようです。著者は日本の同調圧力があるような学校や社会に息苦しさを感じて、ドロップアウトしてインドに移住したとのこと。その本の中ではマスターが紹介したタラブックスのことも書かれていたので、 偶然ですがシンクロしていました。ネタバレになるかもしれませんが、と断りを入れた上で Sさんが言うには、本の最後の個所では、学校で唯一二人だけとも言っていいぐらい共に不登校だった友達が自ら命を絶ったという事実が明かされるらしく、その本の奥行の深さを知らされたような気がしました。ある意味では、自分の分身のような友達がいて、運命が違っていれば自分がそうだったかもしれないということが暗示され、命の尊さについて聞かされたようです。 「本と〇〇」というテーマについて、Sさんから本とは何なのでしょう、と問いかけられたので、私は、本は異化作用だと思うと答えました。その場では詳しく話せなかったので、このレポートの冒頭に書かせてもらいました。S さんは「本は友達」と言いました。自分が孤独なときにも、いつも近くにいて支えてくれるような存在だったのかもしれません。 本とは何なのか。これについては答えが一つではなく、おそらく皆さん、それぞれ答えがあるのではないかと思われます。本とはそれだけ奥深いものです。

(続きは、後編へ)

(本稿執筆者: 今のところ皆勤賞の M)

AFTER BOOK CLUBとは

神奈川県立図書館主催の「After5ゼミ」第1期生がはじめたブッククラブ。
本好きの人もそうでない人も、楽しく月1回集まって読書会をしています。

このnoteでは、読書会の記録やイベント情報、また本や横浜にまつわるお話を公開しています。