潜在意識の南アフリカ~ソウェト蜂起とサラフィナ!から始まるアフリカ旅
潜在意識に南アフリカがあった。
そう感じたのは、アフリカ人生を歩み始めてずいぶん経ってからのことだ。
アフリカについてほとんど何も知らなかった自分が、たまたま大した関心もなく選択した大学のアフリカ研究ゼミ。そして南アフリカの作家ベッシー・ヘッドと出会い、それ以降アフリカで国際協力の仕事をするアフリカ人生になった。
ベッシー・ヘッドに衝撃を受けた原点のまた原点をたどってみると、高校時代にあったのではないかと思う。このことには、長い間、自分でも気づいていなかった。
中学時代をアラスカで過ごし、帰国子女枠で入学した都内の私立女子高は、歴史と伝統あるキリスト教系の学校だった。
数ある学校行事のひとつに、映画鑑賞の日があった。
学校には巨大な礼拝堂にも講堂にもなる劇場形式のホールがあり、映画は毎年そこで上映されていた。
だが、その年は校内に映画のフィルムを持ち込むことができなかったからか、逆に全員で映画館に観に行くという大きな話になった。
映画は、『サラフィナ!』だ。
南アフリカのタウンシップ・ソウェトで起きた学生たちの抗議運動ソウェト蜂起をモデルにしたブロードウェイ・ミュージカルが映画化されたもので、日本では1993年に公開されている。
ちょうどこの年は1993年だった。
人種主義に基づくアパルトヘイト政権が終焉を迎え、歴史的な1994年の全人種参加選挙までのカウントダウンのこの時期、世界が南アフリカに注目していた。
映画がモデルとしているのは、1976年に起きたソウェト蜂起(Soweto uprising)という実際の出来事だ。
アパルトヘイト政権下の南アフリカで、「支配者の言語」であるアフリカーンス語での教育を強制する法令が出され、これに反発した学生たちが起こした抗議行動である。
何万人もの学生たちがデモ行進を行っていたが、警官の発砲をきっかけに暴動化し、多くの命が落とされた。この悲劇的な事件の死者数は176人とも500人以上とも言われている。
主人公の高校生サラフィナと仲間たちは、学園祭でネルソン・マンデラをテーマとした演劇をやろうと計画し準備をしている。しかし、国の情勢は悪化し状況が変わってくる。
映画のなかでは、学生たちが次々と撃ち殺され、人々が理不尽に逮捕され拷問を受ける凄惨なシーンも描かれている。
南アフリカのアパルトヘイトについては、世界史の授業で習った部分もあったが、ほとんどイメージが湧かずにいた。そんな高校生のわたしたちにとって、この映画は衝撃的だった。
少なくとも、わたしにとっては確実にこの経験が、30年経った今でも南アフリカと関わるスタート地点だったのだと思う。
恐らくわたしたちの学校の先生方が、少し無理をして大人数の生徒たちを映画館へ連れて行ったのだろうと今になって思う。(なんせ一学年250人だ)
それくらい、ちょうどアパルトヘイト終焉の時期にこの映画が伝えるメッセージは重要で、先生方はわたしたちにぜひ見せたいと考えてくださったのかもしれない。
わたしの学年の同級生は、ほぼ1976年生まれ。ソウェト蜂起の年だ。
そして、今日6月16日がソウェト蜂起の日である。
ネルソン・マンデラがこの世を去り10年以上。
2024年の今年、南アフリカは選挙でさらなる変化を迎えているようだ。
アパルトヘイトという人種主義政策をとる国で、白人と黒人の間に生まれ、孤児のように育ち、国を出てボツワナで生きたベッシー・ヘッドという人が伝えたかったのは、このアパルトヘイトの悪のことではない。
もっと根源的で、人間的で、どんな人の心にも救う悪、そして人々のことだ。
わたしは1976年生まれのひとりとして、この日本で彼女の言葉を伝え、自分なりの言葉を伝えたいと思っている。
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なお、この話は雨雲出版の『雨風の村で手紙を読む:ベッシー・ヘッドと出会って開発コンサルになったわたしのアフリカ旅』にももう少し詳しく書いてあります。
映画に関する情報
ソウェト蜂起に関する情報
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