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SKAGENの腕時計

SKAGENの腕時計が好きだ。

などと格好つけて言うと、さも自宅に沢山のコレクションがあるかのような響きであるが、手元にあるのは二つだけ。

開発コンサルタントというとにかく長期にわたる途上国出張の多い仕事をしているが、いざ出発しようとすると時計に不具合が起きるという事件を実は何度も経験している。何せ、今までに出発時の空港やトランジットで時計を買ったことが3回あるほどだ。

十数年ほど前、確かジンバブエに出張するその日だったと思うが、時計が止まってしまったことがあった。

慌てて羽田空港の時計屋さんに行ったのだが、こういうときどんなものを選んでいいかわからない。かと言って、出発前の空港だ。さほど時間はない。

店内をうろうろしていると、真面目そうな決して派手ではないタイプのお兄さん店員が声をかけてくれた。

事情を話すと、パッとシンプルなデザインのシルバーメタルの腕時計を取り出してくれた。
それが、デンマークのSKAGENだった。

女性ものの腕時計というのは、やたらアクセサリのような華奢なものばかりで装飾が色々とついているものがディスプレイのほとんどを占める。でも、しっかりした線のあるデザインが好きなわたしは、そんな細い女性性を強調したようなものはどうしても好きになれなかったのだ。

そんな中、お兄さんが取り出してくれたSKAGENのシンプルな美しさに一瞬で惚れてしまった。
余計な装飾は全くないし、シルバーメタルのベルトは一般的な女性ものより少し幅があり直線的でシンプルだ。
そして、数字も書かれていない文字盤にシャープな二本の針があり(秒針がないのもポイント)、数字の代わりに十二粒のキラリと光る小さなストーンが埋め込まれている。

なんて洗練されて上品なデザインなんだろう。

ずっと昔にお付き合いしていた彼は、わたしの身長が高いからか、いつもわたしに男っぽいファッションをさせようとした。(今考えるととんだ支配男だわ)
アニエス・ベーのレディースものだったけれど、かなりゴツいデザインの腕時計をプレゼントしてくれたこともある。

でも、自分がいまいちその時計が好きでなかったことを、自分自身でもはっきりと自覚していなかったくらい、若かりしわたしはけっこうおバカだった。

「女性っぽすぎる」華奢なものも、「男性っぽすぎる」ゴツいものも、どちらも好きではなかったのをはっきりと理解したのは、もっとずいぶん後のことだ。

だから、羽田空港でどれを選んだらいいかわからなかったわたしのために、もちろんわたしを知るわけもないお兄さんが直感で選んでくれたものが、あまりにしっくり来たことに驚いた。これだ、と思ったのだ。
わたしが人生で求めているものはこれだ、と。

それから十数年経った今。
今月始めにとうとう母にもらった時計のレザーバンドが北マケドニアで切れてしまい、帰国してから満を持して新しいSKAGENを買った。

今のわたしは、お陰様で自分が人生で欲しいものがわかっている。

あの時のお兄さんに感謝だ。

ちなみに、件の初代SKAGENはちょっと故障しているので保管してあります。

アニエス・ベーは、個人的にお祓い儀式と感謝をしたあと、メルカリしました。

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