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MBA出願者向け:テスト選択と学習計画 (1) 英語のテスト編

MBA出願者向け:テスト選択と学習計画 (1) 英語のテスト編

Affinity英語学院の飯島哲也(学習コンサルタント)です。

MBA(Master of Business Administration:いわゆる「ビジネススクール」の修士課程)への出願を目指している方々を主な対象として「テスト選択」と「学習計画」について連載させていただきます。今回は「(1)英語のテスト編」です。

前提として、MBA出願においてスコアが使える主な英語のテストは汎用性が高い順に「TOEFL, IELTS, PTE, Duolingo, TOEIC」です。一番汎用性が高いのが老舗のTOEFL(トーフル)でして、TOEFLスコアで出願できない学校は無いはずです。余談になりますが、私が1980年代にアメリカへ留学した際に受験したのもTOEFLでした。私が当時受験したのは第一世代のTOEFL PBT(Paper Based Test: 677点満点)であり、その後第二世代のTOEFL CBT(Computer Based Test:300点満点)、第三世代のiBT(Internet-based Test:120点満点)へと進化を続けています。第三世代のTOEFL iBTも細かい変更が続いています。たとえば、2023年にライティングセクションの形式が変更になりました。


そしてIELTS(アイエルツ)も近年広がりをみせており、MBAトップスクールの中で唯一IELTSを認めていなかったWhartonが2023年度出願シーズン(2024年秋入学者対象)からIELTSによる出願が可能になっています。細かく調べればIELTS不可の学校が存在する可能性もありますが、私が認識している限りの主要なMBAはTOEFLでもIELTSでも出願が可能です。すこし前まではIELTSが不可の学校が少なくなかったのですが、橋の下をたくさんの水が流れました。(時代が変わりました。)

TOEFL, IELTSに次いで汎用性が高いのがPTE(ピーティーイー:Pearson Test of English)」でして、たとえばM7(=Magnificent Seven=アメリカのトップ7校=具体的にはHarvard, Stanford, Wharton, Chicago, Columbia, MIT, Kellogg)の中でPTEのスコアで出願できないのはKelloggのみです。

その次に汎用性が高いのはDuolingo(デュオリンゴ:Duolingo English Test(DET))です。M7の中ではStanfordとWhartonが不可ですが、M7以外の学校でも, NYU(Stern), Rochester (Simon), 等の学校へ出願する際に使えます。

また、実はTOEIC(トーイック)のスコアで出願できるMBAも存在します(INSEAD, HEC, etc)が、例外の類です。

さらに、そもそも英語のテストスコアが不要なMBAも存在します。(MIT, Columbia, Duke, Yale, etc)

*以上は2024年3月時点の情報です。出願の際には志望校のウェブサイトにて最新情報をご確認願います。

さて、MBA出願の際に取り組む英語のテストとしては(特にいわゆる「純ドメ」タイプの日本人の場合は)IELTSをお勧めします。私自身はTOEFLの指導経験が長いですし、自分で書いたTOEFLの本を宣伝したい心理も持ち合わせているのですが(笑)受験生のメリットを考えるとIELTSをお奨めするしかないのです。

IELTSをお勧めしたい最大の理由は「高得点が出やすいから」です。多くのMBAが「IELTS 7.0点=TOEFL 100点」または「IELTS 7.5点=TOEFL 109点~110点」という換算を採用しており、この換算だとIELTSの方がデータ上有利なのです。ちなみに、MBA以外の世界では「IELTS 7.5点=TOEFL100点」という換算を利用しているプログラムも少なくなく、この換算であればTOEFLとIELTSは「五分五分」でしょう。しかし、MBAの場合は一部の例外を除いてIELTSの方に有利な換算を採用しています。

尚、この「IELTS有利の傾向」はあくまで「現時点での傾向」かつ「純ドメ日本人の場合」に限定した傾向ですのでご注意ください。たとえばアメリカ在住経験が長い方(=いわゆる「帰国子女」タイプの方)の場合はTOEFLであっさりと高得点を取られるケースも少なくありません。最終的には「英語圏在住経験」「英語力のタイプ(例:文法等の理屈重視タイプ or 音声面が得意なタイプ」「出願校」等を総合的に考慮した上で決断してください。

では、なぜ「純ドメ」の方にはIELTSがお勧めかと言うと、最大の理由は「TOEFLに比べて音声面の負荷が低いから」です。TOEFLは”Integration”(統合)が好きなテストでして、SpeakingセクションとWritingセクションの両方において「リスニングを含むIntegrated Section(統合セクション)」が存在します。Speaking 4タスクのうちの3タスク(3/4)においてリスニングが含まれ、Writing 2タスクのうち1タスク(1/2)にリスニングの要素が含まれているので、テスト全体の半分以上が「リスニング問題」だと言えるのです。それに対して、IELTS Speakingにおいては「リスニング力の無さで評価を下げることはしない」「リスニング力はリスニングセクションで評価すべき」という方針がうかがえます。具体的に言うと、IELTS Speakingで面接官に”I beg your pardon?”などと聞き返しても基本的には減点対象にはなりません。以上の理由から、英語のリスニングに課題がある方はIELTSの方が「戦いやすいテストだ」と言えるでしょう。

また、TOEFL Listeningは「内容が高度かつ長時間にわたる講義や会話」を聴いた上で質問に答える形式であり「Readingで出題されてもよいのでは?」と感じるほど「ひねった難問」も散見されます。その点、IELTS Listeningの方がディクテーション(書き取り)問題を含む「純粋なリスニング問題」が中心なので、純ドメタイプの方には負担が少ないと言えるでしょう。

TOEFLとIELTSの違いが最も顕著に表れるのはSpeaking Sectionかもしれません。TOEFL Speakingにおいては発音やプレゼンテーションなどの「音声面」が重視されます。これは採点基準として明確に打ち出されているわけではないのですが、TOEFL Speakingの採点者の間に「発音、プレゼンテーション重視の姿勢が見られる」というのが私の分析結果なのです。つまり、TOEFL Speakingは”HOW”重視のテストだと言えるでしょう。逆に、IELTS Speakingにおいては「コンテンツ重視」(“WHAT”重視)の傾向が見られます。IELTS Speakingは採点基準の1/4が単語、1/4が文法です。つまり、採点基準の1/2(半分)が「単語と文法」なのであり、仮に発音に課題を抱えていても中身(単語と文法という「非音声面」の要素)をきちんと磨けばSpeakingで7.0点を取得することも十分に可能です。純ドメの方がTOEFL Speakingで25点を取得するのは至難の業ですが、IELTS Speakingで純ドメの方が7.0点(=TOEFL 25点相当)を取得することは十分に可能なのです。(余談ですが、このSpeaking SectionにおけるTOEFLとIELTSの傾向の違いはアメリカとイギリスの考え方や文化の違いが反映されていると私は考えているのですが、本稿は比較文化論を語る場ではないので別の機会に譲ります。)

では、IELTSに懸念事項が全く無いのかと言うとそうではありません。まず、IELTSはイギリス英語&オーストラリア英語がベースになっているので、アメリカ英語を中心に英語学習を進めてきた方はイギリス英語とオーストラリア英語に慣れる必要があります。また、リスニングにおける「ディクテーション(書き取り)問題」は「本質」や「流れ」を理解することに慣れている受験生や分析力に長けている受験生にとっては「出題ポイントが些末でかえって難しい」という印象につながることもあります。さらに、IELTSはWritingで高得点が出にくい傾向があります。Reading, Listening Speakingの3セクションでそれぞれ7.0点以上を取得して合計スコアも7.5点を達成したのに、Writingだけ6.5点程度のスコアで終わってしまう日本人受験生が少なくありません。ですが、「全セクション7.0点以上&オーバーオール7.5点以上」を要求している学校でも「Writingだけ6.5点なのであれば出願しても大丈夫ですよ」と言われることが多い(裏ルールです)ので、この点はあまり心配しなくてよいでしょう。

以上のような私の考え方を反映させて、現在Affinity英語学院においてはIELTS講座を開講しています。ListeningとReadingの講座「IELTS LRクラス」は火曜日の実施です。このクラスはGMAT VerbalとGRE Verbalの準備クラスの意味合いも兼ねていますので、英語力不足からGMAT VerbalやGRE Verbalの学習開始に躊躇している方にも「プレGMAT/GRE講座」という位置づけでの受講をお勧めしています。担当はIELTS関連書籍を多数出版している内宮慶一です。また、IELTS SpeakingとWritingを扱う「IELTS SWクラス」も少人数制(4人限定)にて実施しています。水曜日のニッシュ講師クラスと木曜日のジェシカ講師クラスの2クラスがありますので、レベルやクラスの進め方などの好みによって選択してください。ニッシュ講師クラスの方がどちらかと初級者向け、ジェシカ講師クラスの方がどちらかと言うと上級者向けです。

私(飯島哲也)は現時点ではIELTS関連クラスは担当していませんが、以前はIELTS SWクラスを教えていました(特にSpeakingは私の得意分野です)ので学習コンサルティングの中で学習法等のご相談に応じることが可能です。また、私は昔はTOEFLを中心に(特にSpeakingとWritingを)指導していましたので、TOEFLを選択している方のSpeaking指導(回答のテンプレート指導、発音指導、等)やWriting指導(特にe-raterから高評価をもらうためのテクニック指導)を担当することも可能です。

尚、Duolingo(デュオリンゴ:Duolingo English Test(DET))も今後注目していきたい選択肢です。受験料が安い(49米ドル)、テスト時間が短い(1時間)、結果がテスト完了後2日以内に入手できる等、魅力に満ちています。出願の際にスコアを使える学校がまだ少ないのですが、利便性が高い魅力的な試験です。

最後に、MBA出願においては英語のテスト受験自体を回避することも可能であることに触れさせてください。そもそも英語のテストスコア提出が不要なMBAも少なくないのです。たとえばMIT, Columbia, Duke, Yaleは英語のテストスコア提出が不要です。また、英語のテストスコアを必要としている学校でも、面接において高度な英語力を示すことができればテストスコアが低くても合格することがあります。複数のMBAアドミッション関係者から「英語のテストスコアが低いというだけの理由で出願を見合わせないでください。面接で高度な英語力を示せれば合格する可能性があります。」という主旨のコメントをいただいています。よって、「TOEFL/IELTSを完全に終わらせてからGMAT/GRE学習を開始すべき」という戦略を採用することが「無難な道」ではあるものの、万人に当てはまる方向性ではないということを強調させてください。たとえば、英語のテスト学習&受験を回避してEA (Executive Assessment)のスコアだけでColumbia MBAへ進学された方もいらっしゃいます。「そもそも英語のテストを受験するのか否か」、「英語のテストを受験するとしたらどのテストを選択するべきなのか」、そして「学力テスト(GMAT, GRE, EA)の対策は英語のテストを完全に卒業してから始めるべきなのか」、等々の判断は「戦略次第」だと言えます。

私はTOEFL/IELTSのスコアが伸び悩んでいる方に「TOEFL/IELTS対策をいったん中断して基礎文法、EA(Executive Assessment)のSC(Sentence Correction)、GMATのCR(Critical Reasoning)等の修業を実施することをお勧めすることがあります。基礎文法、SC, CR等の学びがTOEFL/IELTSのスコアメイクに良い影響を与えることが多いからです。ただし、英文読解力が低すぎるとEAやGMATの学習自体が成立しませんので、せめてReading SectionだけもTOEFL/IELTSを「卒業」していることがGMAT学習開始の目安になります。Affinity英語学院のCR戦略クラスとRC戦略クラスの受講条件は「TOEFL Reading 25点以上」または「IELTS Reading 7.0点以上」を取得済みであるか、あるいは同等の英文読解力があると認定可能な場合とさせていただいております。TOEFL Reading 25点、IELTS Reading 7.0点は本当に「最低ライン」でして、この点数で「卒業」と言えるのかは微妙なのですが、目安としてこのようにお伝えしている次第です。また、仮にEA/GMAT対策を見切り発車させる場合でも、(特に純ドメタイプの方は)英会話のトレーニングだけは地道に継続してください。どんなにテストの点数が高くても英会話力が低いと面接で落とされる可能性があるからです。

以上が現時点での私の「学習コンサルタント」としての見解です。「IELTSがお勧め」とは書きましたが、仮にTOEFLで短期間に目標点数が達成できそうな状況なのであればTOEFLを選択しても(当たり前ですが)全く問題ありません。また、「TOEFL/IELTS対策をいったん中断してEA/GMATの対策を実施することをお勧めすることがある」とも書きましたが、英語のテストを完全に終わらせてから学力テスト(GMAT/GRE/EA)対策を開始することが「理想的」であることは自明の理です。このあたりの決断は本当に「人それぞれ」ですし「出願戦略次第」ですので、詳しくは学習コンサルティングにて個別にお話をさせていただくことをお勧めします。

MBA出願はビジネスパーソンにとって大きな「投資」です。そして、ビジネスにおける「投資」に「上手い下手」があるのと同様に、テスト対策という「投資」においても「上手い下手」が存在します。ぜひ「上手い投資」をしてください。

私の学習コンサルタントとしてのミッションは「テスト対策における投資の最適解を提供すること」です。適切なテストを選択すること、適切な学習戦略を策定すること、適切な時期に適切なクラスを受講していただくこと、等々。MBA出願プロセス自体が「投資能力」が問われる「試練」あるいは「チャンス」だと言えるのです。

次回は学力テスト(GMAT, GRE, EA)について書かせていただきます。