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【2023】#Favorites

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aeuが読んだなかでお気に入りの記事。 面白いな、胸に響くな、好きだなと思った記事。 基準は、まったくない。 このマガジンに入っていないけど大好きな記事もたくさんある。ここに居る…
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#シロクマ文芸部

「春待つ家で、月を見る」ヒスイのシロクマ文芸部

『十二月』という名前をもらったのは、はじめてこの家へ来たとき。 家は子供があふれていた。しかも全員が肌の色も年齢もバラバラ。 後で知ったが、この家の両親=里親は「どこからも里子の声がかからない子ども」ばかりを受け入れているひとだった。 つまり僕も、どこからも声のかからない子ども。 理由はひとつ。顔に大きなあざがあるから。 顔のあざだけで、誰も僕をもらってくれない。 死にそうに悲しかったとき、この家へ呼ばれたんだ。 「十二月。お前の名前は『十二月』だ」 「……はい」 僕に

今年の抱負は不燃ゴミですか?

 十二月の朝六時半、彼は先輩が運転する収集車の助手席で眠い目をこすります。「バイトでも手抜くなよ」と彼女はハンドルをきりました。今年こそ新人漫画賞に応募するつもりだったのにもう年の瀬だと、彼は窓外に燃える紅葉を眺めます。  収集区域は彼も住む街でした。家々の集積所には、体重計やブタの貯金箱、運動靴や参考書、果てはマネキンなどさまざまな物があります。へろへろになりながら拾い集める彼に「捨てられた夢を拾うのも楽じゃねえだろ」と彼女は笑います。  不要となった『今年の抱負』を収

【短編小説】平和とは#シロクマ文芸部

(読了目安6分/約5,000字+α)  平和とは何なのだろう。二か月前まであったものが平和、だったのだろうか。でももしも平和が安らぎなら、今の状態が平和なのかもしれない。いや、とにかく今はそんなことよりも。  朝起きたら、隣に知らない男性が寝ていた。理由は想像もつかない。けどまあ、私の飲み過ぎが原因なのだろう。  二十歳くらいのジャニーズみたいな整った顔。ドレープカーテン越しの微かな陽ざしの中、頬は発光しているように白い。思わず見とれていると、長いまつ毛が揺れ、目が開い

凍える星《#シロクマ文芸部》

凍った星をグラスに。 さらに三奈ちゃんは、極細ポッキー1袋25本を氷の入ったグラスに差す。 三奈ちゃんの中学生のお姉ちゃんが昭和レトロにハマっているらしく、これも「ポッキーオンザロック」という昭和に流行った食べ方らしい。私にはよく分からないけれど。 「チョコが溶けなくていいでしょ」 三奈ちゃんがみんなに言う。 「星型の氷、オシャレだね」 一太くんに褒められた三奈ちゃんは、うふふと頬をほんのり染めた。 「細い!」と文句言いながらもポッキーに手を伸ばした吾郎ちゃんを、ニコちゃんが

通行人A 《#シロクマ文芸部》

「ただ歩くだけなのに、いつまで待たせるんだ」 俺はメガネを拭きながら「計画性がなさすぎるな、芸能界ってところは」と文句を続けた。ハンカチを折り目どおりに畳み直し、スラックスのポケットに仕舞うために丸椅子から立ち上がって遠方を眺める。 ロケバスの中の小百合ちゃんは、まだ出てこない。 「どこも晴れの予報でしたから仕方ありませんよ。大好きな女優さんとの映画共演が待ち遠しいですね。ふふ」 妻の呑気な声はいつも俺をイライラさせる。 共演だなんて。俺たちは単なるエキストラじゃないか