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今年の抱負は不燃ゴミですか?
十二月の朝六時半、彼は先輩が運転する収集車の助手席で眠い目をこすります。「バイトでも手抜くなよ」と彼女はハンドルをきりました。今年こそ新人漫画賞に応募するつもりだったのにもう年の瀬だと、彼は窓外に燃える紅葉を眺めます。
収集区域は彼も住む街でした。家々の集積所には、体重計やブタの貯金箱、運動靴や参考書、果てはマネキンなどさまざまな物があります。へろへろになりながら拾い集める彼に「捨てられた夢を拾うのも楽じゃねえだろ」と彼女は笑います。
不要となった『今年の抱負』を収集するのが彼らの業務でした。公務員の仕事だと思われがちですが、多くは民間委託された業者が代行します。「十二月ともなれば燃えなかった夢は増える一方よ」と彼女は言いました。彼は苦笑いをします。
捨てられた抱負は、物に姿を変えると彼は教わりました。『ダイエットする』は体重計、『貯金する』はブタの貯金箱という具合です。「このマネキンは何ですか?」「『彼氏をつくる』だな」と彼女はマネキンを収集車に蹴り込みます。
「十二月になったからって捨てることねえのにな」と彼女は運転席で呟きます。彼は聞こえないふりをしました。最後の現場につくと彼は逃げるように収集車から降ります。積まれた本、ヨガマット、退職届、結婚指輪をも黙々と拾い集めます。
気づくと彼は自宅の前にいました。収集区域には彼の住所も含まれるのです。山となった抱負の中から、書きかけの漫画原稿を拾い上げました。しばらく紙面を見つめてから、彼女には見えないよう彼は原稿を作業着の内へしまいこみます。
「おつかれ」と渡された熱い缶コーヒーを飲むと彼は目が覚めた心地がしました。帰りの車中、彼女に尋ねます。「抱負って不燃ゴミですか?」。彼女はコーヒーを飲み干して言いました。「いや、資源ゴミ。ちゃんと叶うまでリサイクルしろよ」
小説 No.418
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