耽溺する肉聲、熟れたレイシを喰す 第8話

一時間後、リクの自宅へ向かう途中、驟雨しゅううが強く降り出してきた。

目黒駅に到着して改札口の外に出ると路地にできたところどころの水溜りがかさを増している様子が目に入った。私達は急ぎ足で自宅へ向かい更に強い風が身体を刺してきたので、一旦商店街の軒下で雨宿りをすることにした。

「まだ止みそうにも無いな」
「もう少し待とう。風が弱まれば雨も落ち着く筈だ」

数十分待ったが彼の言う通り雨が治まりそうもない。再び走り出していき自宅に到着するとリクは先に部屋に上がりタオルを渡してくれた。或る程度身体を拭き居間へ入り椅子に腰かけた。

「珈琲しかないな……」
「構わない。其れでも良い」

やがて部屋中に淹れたての珈琲の香りが充満してきて、彼が注いでくれたマグカップを受け取るとその熱でしばらく手を温めた。

「今日は一日晴れると聞きましたが、予報がはずれましたね。」
「この時期は例年こんな感じだろう。珍しい事でも無い」
「僕は、あまり雨が好きではない」
「どうして?」
「子供の頃、雨に当たるとよく風邪をこじらせていたんだ。今ほど身体も丈夫じゃなかったし」
「それなら尚更だな。俺は雨は好きな方だな」
「何故?」
「屋根に当たる雨音を聞くのが心地よくてね。まあ流石に大降りの時は話が別だがな」
「面白い人だ」
「そう?」
「もう少ししたら風も落ち着くだろう。其の頃にはご自宅に帰れそうですね」

彼の其の言葉を聞いて、私は目線を落として俯いた。気になる事でもあるかと尋ねてくると、彼に先程の告白の返事が聞きたいと返答した。

「何故僕が良いと思ったんですか?」
「初めて抱いた日の夜、君が自分を好きになると言霊の様に告げたよな。どうやら俺はそれをすっかり受け入れてしまったようなんだ。……お前のその眼差しが、俺に少しの間でも傍に居て欲しいと聞こえてきたんだ」

リクはコップをテーブルに置いて私の座る椅子の隣に腰を掛けてきて、私の頬に手を添えて、まるで西洋の人形の様に大きく瞳を開き、こちらを覗きこんでは優しく微笑んできた。

「僕は貴方を騙すつもりでいようとしたんだ」
「どういう意味だ?」
「恋人が居るのに分かっていて近づいて、ローズママに頼み込んでやっと貴方に会えた。何もかも奪うなどと全部は無理だが、貴方のその他の人とは違うたくましさに惹かれている。」
「寂しさを埋めるためじゃ無く?」
「ええ。むしろもっと自分には持ち合わせていない他人の自由や権力を奪いたいと……でも、貴方は違う。一人の男として、人として欲したいと……その願いを聞いてくれるかい?」

私は肩に掛けていたタオルを外して床に置き、リクの頭を撫でで額に口づけをした。

「また、抱いても良いか?今、この時だけお前が欲しくなっている」
「ええ。遠慮なくしてやってください……」

お互いに身体を抱きしめ合い、しばらく唇を交わし続け、それぞれの体温が熱を帯びてくるとベッドへ向かった。
リクを座らせて私は床に足をひざまずき、再び口付けをしながら上半身の衣服を脱がせた。首筋から胸や腹にかけて愛撫していき彼の顔を見上げてはお互いに微笑み合った。

次に下着を下ろした。私は彼の両脚を開き中から出てきた茘枝れいしの実を喰い始めた。
やがて汁も溢れ出ていばみながら吸っていく。身を焦がしては背に通る微熱を感じては皮膚の中に冷却させていく。
誰も呼ぶな。誰も近づくな。害響は聞こえどもこの時を邪魔されたくはない。首をそり返し息をするのも辛そうな乾果する彼の喉から発する嘆きの声を拾っては、また繰り返し実を喰らう。

「ジュートさん……もうやめて」

彼が溜め息混じりで私の背中や腰を摩る。思う存分私を堕としたいのなら、その抵抗さえ聞き捨てならない。

「もう、いいんだ。貴方が其処までしたいのなら……僕は奇蹟さえ覚えるよ……」
「妥協したくないのなら最後までさせてくれ。男同士の筋を通したいんだ。誰が逃げるものか……!」

更に彼を仰向けに寝かせて自分の脱いだ衣服を投げるように捨てると何度も彼の唇に触れては舌を入れて交わし続けた。
それから臀部の穴に硬く濡れた陰茎を挿入し、身体を揺すると彼はシーツの上で這いつくばりながら自身の穢れを洗い流すように情に更けては涙を流していく。

私はその姿に、ローズバインでの二階の狭い一室で客人の相手をしていた時の自分を重ねていた。

あの頃は何をされても抵抗さえ嫌う者もいたが、複数の男達と複数の性技で裸体に爪痕を刻まれては快楽に溺れていったんだ。
ありとあらゆるものが空から降ってきて、顛墜てんついする麒麟の様に均衡が乱れて長い首と手足を縄で縛られながら糞泥まみれになった。

けがれたこの身でも私達男色はそれが己の人生なんだと、気が遠のくように記憶に刻まれていったのだ。


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